20 夢のひと時を魔王さまと
こんな書き出しでよいのかどうか悩みますが……
わたし、夢の中で魔王さまとお会いすることができました。
相変わらずわたしとユニちゃんはクリスタルの中に閉じ込められていています。けれど、魔王さまと夢の中で会えました。
都合のいい夢を見ただけでしょうか。
魔王さまは、夢魔の力を借りてここへ来たとおっしゃっていました。勇者さんの用意したこのクリスタルの中は完全に外気と隔離されていて、本来ならアクセスはできないそうです。
しかし、魔王さまの強いお力と夢魔のアシスト、そしてユニちゃんという特殊な目印がそばにいたからできたのだとおっしゃっていました。
夢の中で魔王さまをお見かけした時、嬉しくてたまりませんでした。ずいぶんと長いあいだ離れていたように思えたのです。
魔王さまはわたしに気づくと、その大きな腕でわたしを包み、抱き上げてくださいました。苦しいくらいきつく抱かれているのに、わたしにはそれが嬉しくてたまりません。
「……レクスさま。お会いしたかったです」
自分が見ている都合のよい夢と思っていたので、臆面もなくそのお名前を読んでしまいました。
「姫、よく聞いてほしい」
わたしを抱き上げたまま、魔王さまは夢を渡ってきたことを告げられました。そして現状と、これからのこと。
パピリスとフロスは無事だそうです。大事なくてよかった。それとわたしが連れ去られたことを皆さん心配してくれるそうで、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
そして魔王さまは信じられないことをおっしゃいました。
「突然こんなことを言って驚かせると思うが……私は姫に心を奪われている。愛らしい、愛おしいと思っている。そして同時に、恐ろしいとも思っている」
わたしを腕の中にとらえたまま、魔王さまは言葉を続けます。
「姫を失うことがとても怖いのだ。今でもこのように苦しいのに、もしも……」
そこまで言って、魔王さまはわたしを優しく下ろしてくださいました。しかし表情はすぐれず、何か痛みを堪えるようでした。
「客人だなんだと誤魔化したが、事実として姫は魔族にさらわれ、囚われた。私が浅慮だったのだ。人間側がこのようなことを起こすのも当然だろう」
しだいに魔王さまのお姿がぼんやりとしてきました。
「姫には未来を選ぶ権利がある。このまま人間の国へ戻るのも選択肢のひとつだ。……そして私が姫を手放してあげられる唯一の道であり、チャンスなのだと思う」
霧に呑まれるように、少しずつ形が消えていきます。わたしはそれがイヤで、必死に手を伸ばしました。行かないでと叫ぼうとしました。しかし体はぴくりとも動きません。
「すまない、少しやることがあるんだ。そのあいだ、この忌々しい勇者と共に行動して見聞を広げるといい。よく見て、よく考えて、世界を知るといい。その先でどんな答えを出そうとも、私は姫を決して責めない」
魔王さまの声もだんだんと消えていきました。
目が覚めたとき、わたしは少し泣いていました。
お会いできた嬉しさと、お別れした切なさ。
どちらも尊くて、大事なのかもしれません。




