19 勇者さんの事情
さすがに疲れが重なったようで、勇者さんは魔法をほどこしたテントで体を休めました。
わたしはチャンスだと思い、ここぞとばかりに事情を聞いていきました。逃走中だったこともあってこれまでゆっくり話をする機会がなかったのです。
勇者さんはもともと狩人を生業とする方で、魔法が使えることもあり、近隣に名を馳せる評判の若者だったそうです。
突然国王に呼び出され、命令されたのは「行方不明の姫を探せ」。両親や幼い妹さんを人質にとられ、大した金も持たされないまま、城から出されたと勇者さんは言いました。
勇者さんは仕方がなく国いちばんの占い師にわたしの居所を占ってもらい、必要と思われる道具を準備し、計画を立てて魔王さまのお城へと侵入したそうです。
魔族から余計な恨みを買いたくないので極力傷付けず、殺めず。わたしを奪還したらすぐに逃げ帰る。それを可能にするためにあらゆる手段を使ったそうです。
わたしが閉じ込められたクリスタルも魔石商をめぐってわざわざ準備したのだと勇者さんは言いました。費用はすべて国王へ請求されているらしいですが……大丈夫でしょうか。お父さまが払う価値がないと拒否されれば、魔石商をはじめいろんな方へ支払いができません。
わたしがそうこぼすと、勇者さんは大丈夫だと笑いました。
「姫さんを心配してる官僚たちがいる。そいつらに話をつけてあるからアホ国王は確認もせずサインして終わりだ」
そう言われて思い当たる方たちの顔が浮かんできました。同時に、大変だった当時の思い出もよみがえって、胸の内に苦いものが広がります。
わたしを連れ戻す理由はなんでしょう。
この問いにも、勇者さんはさらっと答えてくれました。
「砂漠の国から縁談が来てるんだと」
それを聞いて納得です。
砂漠の国は一夫多妻制なので、きっとそのハレムに加わることをお姉さまがたが嫌がったのです。しかし貿易の観点から砂漠の国との繋がりは持ちたい。
「姫さんには悪いが、俺も家族が大事だ。だから最後にはあのアホ国王のところへ連れて行くぜ」
決意に満ちた声でした。勇者さんはご自分の正義のために動いてらっしゃいます。そしてそれは正しいです。
わたしは返事がすることができませんでした。感情の波に飲み込まれないようにじっと下を向いていると、ユニちゃんが寄り添ってくれました。優しい温もりが荒んだ気持ちをなぐさめてくれます。
「ユニちゃん、ありがとうございます」
きゅわ、と鳴くユニちゃん。
わたしの方が年上なのに、気を使わせたのでしょうか。書いていて情けなくなってきました。
よし、気分を変えてまいりましょう。
パピリスが教えてくれた美容体操をやってみようと思います。




