14 これはデートというらしいです
フロスたちが準備していたこれは「デート」というらしく、親交を深めるためのイベントらしいです。
魔王さまに手を引かれ、連れられたのは城内にある書庫でした。十歳くらいの子どもたちや貴婦人、老紳士らが数人いて、彼らはわたしたちを笑顔で迎えてくれました。
「魔王さまの朗読が聞けるとは、長生きをするものですな」と老紳士が朗らかにおっしゃいました。
「今日は特別だからな。いつもいつもはせんぞ」と魔王さまも笑って答えられます。
きょとんとしている間に準備は終わり、魔王さまを囲むように並んだ椅子にわたしを腰をおろしました。
魔王さまは一冊の本を手に持つと、声に出して文章を読んでらっしゃいました。子どもたちは目をキラキラさせて、ご婦人方は目を閉じうっとりとした様子で、老紳士は楽しそうに物語に聞き入ります。
もちろん、わたしも。
魔王さまの優しく落ち着いた声音が、物語を彩り、奏でていきます。
わたしは本を読むのが好きでした。
つらいことがあっても、瞬時にいろんな世界を見せてくれる物語が大好きでした。でもそれは自分ひとりで浸るもので、他の方と共有するといった経験はありませんでした。
読み聞かせなら字が読めない人でも一緒に楽しむことができます。学びが途中の人も、視覚が弱っている人も、本を持つことができない人も、これならみんなで物語を読むことができます。
こんなに周囲を幸せにできることがあったなんて。
「姫、こちらへ」
わたしが感動で打ち震えていると、読み終わった魔王さまがお呼びになります。そして一冊の詩集を手渡されました。
「姫の声で聞かせてくれないか」
なんということでしょう。
わたしにも朗読の機会をくださったのです。
それは比較的短い詩がいくつも載っているものでした。魔王さまのように上手には読めませんでしたが、終えると胸に達成感が満ちていきました。皆さまからお褒めの言葉を頂きました。魔王さまが「上手だった」と言ってくださいました。
嬉しくて、嬉しくて、わたしは少し泣いてしまいました。
もしまた機会を頂けるのなら、また朗読をしてみたいです。たくさんの人に喜んでもらえるような、そんな朗読をしてみたいです。
そのあとも素敵なことがたくさんありました。
庭園でいただいたランチも格別でしたし、魔王さまとふたりきりでお話する時間もとても楽しくて、夕方になるのが惜しかったくらいです。
今日は魔王さまのいろんな面を知ることができました。朗読される時の心地いい声音。日の下で色を変える瞳は美しく、思わず魅入ってしまいました。それに物知りで、お優しく、無学なわたしの話にも耳を傾けてくださる器の広さ。
魔王さまは今までで出会ったどんな方よりもとても素敵だと、そう思ってしまいます。




