13 明日は魔王さまと
なんと明日は魔王さまと一緒に過ごすことになりました。もともと別の予定がおありだったのですが、先方の都合で急きょキャンセルになったようです。
朝食の席で聞かされてびっくりしてしまいました。わたしなんかと一緒にいても魔王さまの益にはならなさそうですが……いえ、ここはわたしが魔王さまへ日頃の感謝を伝えるいい機会なのかもしれません。
魔王さまは「姫は行ってみたい場所ややってみたいことはあるか」と聞いてくださったのですが、情けないことにその時は言葉が出てきませんでした。
それでも魔王さまはわたしを怒ったりなさいません。
「あとで侍女たちに聞いてみるといい。流行りの娯楽は彼女たちがよく知っているだろう。もし言いにくかったら日記へ書いてくれても構わないし、特にないのだったら私に任せたまえ」
わたしは部屋へ戻るなりパピリスとフロスに相談しました。こんなことは初めてで、どうしたらいいのかわかりません。魔王さまとのお約束はとても楽しみです。それと同時に、恐れ多いという気持ちも少なからずあります。
できれば魔王さまにも楽しんで頂きたい。
いい一日だったと思ってもらえる日にしたい。
そういうふうにふたりに伝えてみました。
こういうものはフロスのが得意のようです。いろいろな話をするうちに、キラッとその瞳を輝かせます。
「姫さまの好みと魔王さまに対する距離感はなんとなく掴めました。あとはわたくしどもにお任せください」
そう言って、打ち合わせをしてくると魔王さまの側近であるイゴルのもとへ行ってしまいました。戻ってきても詳細は明日の楽しみだと言って、教えてくれません。
城内で働く方々もなにやら慌ただしく準備をしています。わたしが気になって覗こうととすると、パピリスとフロスが「楽しみですね」とやんわり遠ざけてしまいます。
そのうち、明日のドレスをどうするかとパピリスが気合いを入れはじめました。アクセサリーやメイク、髪型もあれこれ試して、フロスと作戦会議をしています。そんなに飾り立てるなんて、まるで式典のようではないですか。
「なんだか大事になってしまったな」
夕食時に魔王さまはそう言って苦笑されました。
わたしは「申しわけありません」と頭を下げます。
「いや、姫が謝ることは何もない。城の者たちが勝手に浮かれているのだ。こういうのもたまにはいいだろう。姫も大目に見てやってほしい」
きっと皆も姫が来てくれて嬉しいのだ。
魔王さまはそう言って笑ってくださいました。
そのお顔を見たとたん、きゅっと胸が苦しくなりました。ぶたれた訳でもないのに。苦い薬を飲まされた訳でもないのに。でも嫌な気分ではありませんでした。
明日は朝食を食べて少ししたら約束の時間です。
なんだか今から緊張してしまい、眠気は当分やってきそうにありません。




