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とらわれお姫さまのゆるふわ日記  作者: 猫の玉三郎


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11 鬼レモン選手権です

 魔王さまとの日記は相変わらず挨拶のやりとりですが、日記帳に連なっていく言葉のやりとりを見るだけで気持ちがほっこりいたします。魔王さまもきっとお忙しいだろうに、わたしなんかの相手をしてくださってありがとうございます。



 今日は城内で鬼レモン選手権というものがありました。


 これは料理長が主催する若手の育成をかねたイベントだそうで、毎回ことなる食材を用いて誰が一番おいしいものを作れるかという内容になっています。


 審査員は料理長をはじめとした五人の強者。


 美と健康のスペシャリスト、侍女パピリス。

 無類のスイーツ好き、魔王さま側近のイゴル。

 とにかく肉料理にはうるさい護衛官アムト。

 その審美眼で料理の彩りを見極める侍女長ヴェトラナ。


 そして料理センスでは右に出るものはいないと言われる、カルダ料理長。


 魔王さまとわたしは味見席におりまして、なぜかご相伴に預かることとなりました。


 まず鬼レモンというのはとある地方で採れる大きなレモンのことです。この辺りでよく流通するレモンより酸味が落ちるものの、そのぶん甘みがあり、皮の苦さも少ないそうです。とは言ってもレモンなのでそのままでは酸っぱすぎて食べるのは難しいそうですが。


 料理が出そろうと審査員の方は真剣に味や見た目を吟味されていました。


 パピリスが挙げたのは「1番ハニージンジャー鬼レモネード」。


 いわく、オーソドックスなレモネードだけれど、滋養があるハチミツに発汗作用があるショウガ、そして体の調子を整える鬼レモンの成分があますことなく活かされていて、夏場にはもってこいの飲み物だと太鼓判をおしていました。


 側近のイゴルの一押しは「5番鬼レモンパウンドケーキ」。


 甘くさわやかな鬼レモンの風味とこっくりとしたパウンドケーキとの相性が抜群で、上にかかった白いレモンアイシングの口溶けは最高だと語っていました。


 護衛官アムトは「3番鬼レモンステーキ」。


 薄くスライスした牛肉を熱々の鉄板に並べ、甘辛いレモンソースをジュワッと流し込むと、会場にいい匂いがただよいました。男の食欲を猛烈にそそる逸品だとアムトは熱く語りました。


「添えられた薄切り鬼レモンを食後に口へ放り込むとさっぱりしていい。酸味が薄いからちょうどいい」


 侍女長ヴェトラナが選んだのは「2番鬼レモンと生ハムのサラダ」でした。


 まず、見た目が華やか。葉物野菜の優しいみどりに、小さくスライスした鬼レモンの黄色、生ハムのピンク。レモンを使ったドレッシングはさっぱりとしつつも、塩気のある生ハムは食べ応えが前菜として申し分なしとのことです。


 皆さま、すごいです。

 わたしはただおいしいおいしいと食べていただけなので、皆さまの的確な分析に舌を巻くばかりでした。


「姫はどれが好きだろうか」


 となりにいた魔王さまが優しく問いかけてくださいました。


 わたしが好きだったのは「4番白身魚のポワレ鬼レモンバターソース」でした。どう好きだったのか、作ほどの品評を参考にたどたどしくお伝えしました。


 白身魚の丁寧な処理と、くさみもなくカリッと焼き上げた皮の香ばしさが上品で、こくのあるバターとさわやかなレモンがうまくまとまったソースが白身魚とよくあっていたると思いました。口の中でほろりと崩れる魚はうまみがあって……


 と、そこまで言って口を押さえました。

 鬼レモンではなく魚のことを熱く語っていたのです。


 いたたまれなくて魔王さまを見上げると、楽しそうに笑っていました。そんなお姿に胸がどきんと跳ねます。ポワレの感想も飛んでいってしまいました。


 料理長の総評もくわわり、特賞に選ばれたのは選鬼レモンステーキでした。作った料理人には金一封です。


 どの料理も評判がいいので、ブラッシュアップして今後のメニューに取り入れるとおっしゃいました。ということはあのポワレもまた食べられる……?


 ひとつの食材をテーマにした料理選手権は今後も定期的に行われるようです。次がとても楽しみです。

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