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139・シェイプシフターの弟 4

第四章の後になりますので、サブタイトルは続き番号になっています。

二話のみです。

アーリー視点だけなので、特に読まなくても本編には関係ないような気もします。

一部、性的に胸糞表現がありますので、苦手な方はスルー推奨です。


「リリーが誘拐された?」


公爵家の影から知らせが来た。


確か、僕はリリーに護衛をつけていたけど、それとは別に公爵家の影が来たのはどういうことなのか。


 


 僕はラヴィーズン公爵家のアーリー、十七歳になった。


十五歳で成人し、双子の兄であるリブはお隣の伯爵家の娘ヴィーと婚姻の契約を交わし、分家として辺境地に居る。


ヴィーは王都で、学校と公爵家の本邸で領主夫人としての教育を受けている最中だ。


 そして僕は、学校卒業後に王宮の近衛騎士団の試験に合格し、今は訓練のために週に三回ほど王宮に出仕。


残りの時間は勿論、公爵家跡継ぎの勉強だ。




 公爵家はリブのいる辺境地だけでなく、他にもいくつか領地を持っている。


優秀な人材に管理を任せているが統括は本邸で行う。


それだけじゃあない。


公爵家は王家との血の繋がりもある。


表立って国政を司る王族とは別に、国内の貴族や他国との間を調整する裏の仕事もあるのだ。


つまり、僕は忙しい。


お蔭で、思うようにリリーに会うことが出来なくなった。


 リリーも卒業後は公爵家でのダンスの練習もなくなったので、たまに双子の姉であるヴィーのところに顔を出しに来るだけだ。


令嬢の仕事は主に花嫁修業と決まっているが、活動的なリリーの場合は当て嵌まらない。


学生時代から、公爵家との共同事業を始めた父親のロジヴィ伯爵の手伝いを始め、今では僕の代理として様々な視察や援助を行ってくれていた。


そのため、他の男性からの婚約の申し込みがあっても公爵家の承諾が必要だということになっている。




 そのリリーが白昼、街中で怪しい男たちに馬車で連れ去られたという。


「本日は少々危ない地域での奉仕活動でしたから注意はしておりましたが」


どうやら前日に、どこかの貴族からの横槍が入ってしまったらしい。


そうなると、さらにリリーは熱くなる。


意地になってその場所へ向かったのだろう。


 その日、僕は王宮にいた。


「すぐに上司の許可を取って帰宅する。 早く探せ」


「手を尽くしております」


「言い訳なんて聞かない」


影にそう告げて、僕は王宮の中を早足で近衛騎士団長の部屋へ向かった。


 リブなら、こんな時どうするだろう。


僕は右耳の青いイヤーカフに手を振れる。


「どうかリリーを守って」


少しだけ声が震えた。




 令嬢の誘拐など大っぴらには出来ない。


今後の婚姻に傷が付くからだ。


王都の中心から離れた、小さな路地の奥。


周りは木や草で建物自体が見え難い。


「こちらです」


僕は公爵家騎士団のワイアットと二人で、辺りを窺う。


影からの報告通り、古びた家に似合わぬ立派な馬車や馬が繋がれている。


 ワイアットが周りにいた数人の男たちを静かに捕らえて足元に転がしていく。


「私のことは気にせず行ってください」


家の外はワイアットが制圧する。


少し離れたところで僕の従者であるエイダンが僕たちの馬を守っていた。


「ああ、頼む」


僕は静かに、その小さな一軒家に入り込む。




「何者だ」


「そっちこそどこの家の者だ」


奥の部屋、扉の前にいた良家の騎士らしい男二名を致命傷程度に斬り倒す。


「うわあああ、ひぃいいい」


部屋の中から男の悲鳴が聞こえ、僕は乱暴に扉を開けて中に入った。


「遅いぞ、アーリー」


そこに居たのはリブだった。


 その足元には剣を突き付けられた男。


「お前の代わりに捕まえておいた。 リリーは気を失っている」


一瞬呆けてしまった。


そうだ、リリー!。


「リリー!」


駆け寄ろうとしてリブに服を掴まれる。


「煩い、静かにしろ。 目を覚ますと厄介だ」


部屋の隅まで逃げ、ガタガタ震えている若い男の顔に見覚えがあった。


どこかの伯爵家の三男坊だったかな。


服を着ていない。


「まさかっ」


思いっきり低い声でその男を睨む。


「アーリー、リリーの貞操は無事だ」


リブがその前に止めてくれたという。


「あ、ありが」


「そんなことはどうでもいい」


粗末なベッドの上に毛布が丸められている。


それがリリーだった。




 リブが僕の肩を抱き、落ち着いた声で囁く。


「いいか、この場を誰にも見せるな。 リリーはお前がここから連れ出せ」


馬に彼女を乗せて公爵家の御用達の宿に連れて行けと言う。


あそこなら宿の者も口が堅い。


「これから僕の言う事を全て記憶しろ」


リブは一切の指示を僕の頭に叩き込んだ。


吐き気がした。


「これをやるかどうかはアーリー次第だ。 ただ、やらなければ、もう二度とリリーは手に入らないぞ」


リブはポンッと僕の肩を叩いて離れた。




「さて、この男はどうする?」


リブの声に僕はギリッと唇を噛んだ。


「殺す」


「だろうな」


だけど、とリブは窓を見た。


布で外が見えないようになっているが、その向こうには僕の従者や護衛がいる。


リブは盗聴避け魔道具を見せて言った。


「僕はこの場所にはいないことになってるし、そうだな。


この男の関係者を全部僕にくれないか。 そしたら、この男は殺してもいい」


外にいた護衛や御者、この男の家の者も含めて、全てをリブに任せると約束する。


「ひっ、た、たのむっ、みのがし」


リブがその男の頭を鷲掴みにして立たせる。


「見逃すわけないだろ」


「ぎゃあああああ」


どこかから鈍い音がした。




 そしてリブは、自分が持っていた剣を僕の手に握らせる。


「アーリー、やれ」


そう言って、その男を僕のほうに突き飛ばす。


血飛沫が飛び、ゴトリとその男の頭と別れた身体が床に倒れる。


「ワイアットには他の者に後処理をさせると言って、そのまま一緒に宿に行け。


罪人たちは僕が引き受けるから心配するな。


従者のエイダンには自分たち以外の馬を放し、この家と外の馬車に火を着けるように言ってくれ」


僕は頷き、毛布ごとリリーを抱き上げた。


部屋を出る前に、床に倒れていた男の亡骸がリブの足元から伸びた闇に呑まれていくのが見えた。




 僕はリブの言った通りにした。


だって、何も考えられなかったんだ。


リリーが可哀そうで、自分が許せなくて……。


 ワイアットと馬で公爵家の秘密の宿に到着すると、そこに公爵家文官のオーヴェンが待っていた。


「エイダンは後から来る」


僕の言葉にオーヴェンは黙って頷いた。


 僕たちは、ほとんど会話を交わさず宿に入った。


ワイアットは部屋の外で待機し、オーヴェンは荷物を運び込む。


「着替えを一式お持ちしました。 それとリリアン様のご実家にはアーリー様と一緒だと伝えてあります」


「ありがとう」


外で馬の気配がして、エイダンが早足にやって来る。


「始末は済みました。 我々は先に本邸に戻ります」


「うん」


三人は軽く礼を取り、宿を離れて行く。


手伝ってくれた彼らのためにも、ここからは僕が踏ん張るのだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 その日、リリアンは以前から頼まれていた施設への慰問を予定していた。


リリアンは幼馴染である公爵家のアーリーの代理として、この仕事を請け負っている。


五歳で出会ってから、ずっと彼には世話になってばかりだ。


学校も卒業したのだから、これからは少しずつ返していきたい。


「申し訳ありませんが、今回の慰問は見送っていただきたい」


公爵家の護衛から予定の変更を打診されたがリリアンは断る。


「少しぐらい危ないからって中止にする訳にはまいりません」


凛とした貴族らしい振る舞いは、公爵家との長い付き合いで身に付けた。


それでも、リリアン自身は伯爵家令嬢であり、上位貴族からは生意気だと蔑まれることもある。


「大丈夫だよ。 リリーなら出来る」


大切な幼馴染のアーリーの信頼を裏切ることなど、あってはならないのだ。




 当日、せめてもの防衛策として、護衛は屈強な男性に限定した。


「リリー。 私には何も出来ないけど、せめて御守り代わりに持って行って」


姉のヴィオラは自分の小さな薔薇のピアスを外し、リリアンの服の襟元に差し込んだ。


そして小さな声で呟く。


「リブ様、リリーを守ってくださいませ」


それほど今回は警戒していた。


なにせ、伯爵家に届いたのは犯罪予告だったのである。




「なによ、これ以上、公爵家と関わるなって」


アーリーたちとの付き合いも十二年目。


公爵家と伯爵家では家格が違い過ぎる。


ヴィオラたちのような特殊な理由がなければ、アーリーとリリアンは結ばれることなどない。


「分かってるわよ、そんなこと」


リリアンは馬車の窓に写る自分に呟く。


その時、ガタンッと揺れて馬車が停まり、外が慌ただしくなった。



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