学校帰りのサイコロステーキ
「暗殺者」、中学の部活内での俺の呼び名だ。
元々切れ長な一重で意識しないと睨むような双眸に加えて、集団での存在感の無さが由来らしい。発言力のある部員が言い始め、瞬く間に殆どの部員がイジッていい人間という烙印を俺に押した。
嫌だと言えずにヘラヘラ誤魔化していると、部員達の無邪気な切っ先は徐々に凶刃と化した。俺を見ると部員が「ヤバい!暗殺者だ。殺される」「みんな逃げろ、キレると何するかわからねぇ」と、幼稚で残酷な言葉を毎日投げかける。気持ちを誤魔化すための笑顔も今では作り方がわからない。
帰宅して飲み物を取りにキッチンへ行くと、赤く濡れた包丁を握りしめた婆ちゃんが立っていた。
「お帰り。今日の夕飯はサイコロステーキだよ」
「どうしたの?ステーキなんて誕生日にしか出ないのに」
「私がお肉を食べたい気分なの。でも、一人では食べきれないから、あんたも付き合って」自分が婆ちゃんの孫だと納得できる切れ長な一重を細めてヒヒと笑った。
「はい、お待ちどおさま。味が薄かったら醤油かけてね」
フォークを突き刺しサイコロ状の牛肉を口に運ぶ。肉の旨味が口に広がり香ばしさが鼻を抜ける。
「学校で何かあった?」俺の目を直視した婆ちゃんが語りかける。
「何もないよ」牛肉を慌てて飲み込み答える。
「顔を見ればわかる。想像してごらん。あんたを傷つける奴らをこのサイコロステーキみたい食っちまうのさ。どうせ不味い肉だけど、よく焼いてソースや香辛料で味を調えれば食えなくもない。咀嚼して、飲み込み、消化する。そのうちチャンスは来るから」婆ちゃんは俺に語りかける。
「でも、本当に駄目なときはまた婆ちゃんと一緒にステーキを食べよう」
何でそんなこと言うんだよ。共働きで忙しい両親は俺が弱音を吐いても「男がくよくよするなど心が弱い」と言うだけなのに。
「私も器量が良くないから、散々言われたよ。まぁ、私なら本当にこうするかもねぇ」と言い、右手に持つナイフで首を切り裂く仕草をしていじわるそうに笑った。
何か月も忘れていた感情を思い出す。きっと、今の俺は目の前の婆ちゃんと同じ表情をしている。
「フフッ、何それ、暗殺者みたいだ」
「やっと笑ったね。さぁ、冷める前に食べな。野菜も忘れずにね」
あれから、俺は嫌な奴を頭の中でサイコロステーキにする。まだ、問題は未解決けど、泣きたくなる帰り道にそうすると視界が少し開けてくる。
「本当のサイコロステーキはまだいいかな」
この度は未熟な文章を読んでいただきありがとうございます。
中学生の無邪気な残酷さに苦しむ少年とそれを見守るおばあちゃんの物語です。作中に書いたように問題の解決方法としては弱いのですが、彼には味方がちゃんといることと、想像することが少しでも俯いた彼の視線を上に向けることにならないだろうか、という思いで書きました。
こちらは「なろうラジオ大賞3」に向けて以前投稿した短編小説を修正しました。
1000文字という指定がやっぱり難しいですね。
他にも書き進めていますが、今回は何本投稿できるやら。少しずつですが書いていきます。
ご感想いただけると嬉しいです。