第93話 薬草ゼリー。
風呂を出ると死人みたいな顔と色のセレストとミリオンが椅子に崩れ落ちていた。
「過酷だったのか?」
「…無力さを痛感したよ」
「本当、まだアイスランスすら撃てないのよ」
この感じを見るからに余程過酷で手も足も出なかったのだろう。
「そうだな。初日の感想で言えばジェイド以外は落第点だな」
ヘルタヴォーグが厳しい目で言う。
その言葉を聞いたセレストとミリオンが更に一段崩れ落ちた気がした。
「まあジェイドは来週以降がキツいがな」
「そうなのか?」
「当然だ。ジルツァークの加護無しに肉体の限界ギリギリまで力を引き出す訓練をしないと死ぬのだからな」
「そうか」
「その時にはセレストとミリオンはヨチヨチ歩きの雛鳥から親鳥から飛び方を教わる小鳥になっているだろうしな。さあ、夕食を食べて帰るが良い」
ヘルタヴォーグがドアを開けると夕飯が用意されていた。
「いや、ジルとの約束が…」
「明日怒られたら辞めればいい。当たり障りのない会話しかしない。それならジルツァークも怒るまい」
そう言われて3人はヘルタヴォーグの好意を受けて食事をして行く。
ジェイドは風呂で内臓の疲労が取り除けたからか今までより味がよくわかった気がして嬉しくなる。
「ジェイドは特別に薬草ゼリーも食してもらう。味は悪いがこれで内臓の傷も癒せ」
そう言って出てきた薬草ゼリーをジェイドは食べたのだが「なんだ、味がしっかりあって美味しいじゃないか」と言いながら食べ進める。
それも無理をする感じではなく楽しそうにひょいひょいと口に運ぶ姿は美味しく食べている風に見える。
「ジェイド、美味しいならひと口貰えないか?」
興味深そうにセレストが聞いてきたのでひと口渡すと「おげぇぇぇぇっ!?苦い!?辛い?痛い?なんだこれは!?」と言って悶え苦しむ。
「…ジェイド?セレストのリアクションとジェイドのリアクションはどちらが正解なの?」
「ミリオンも食べるか?」
ミリオンは一瞬気になったのだが横で苦しむセレストを見て「やめておくわ」とだけ言う。
「ふむ。セレストの方が正しい反応だ。ジェイドは何故平気なのだ?」
「味があるだけマシだ。俺は亜人から受けた拷問の中に延々と泥水と土と石を食べさせられた事がある。あれは味がなくて不味い。それに比べれば味がキチンとあって美味い」
ジェイドはスプーンを止めずに食べ続けながら答える。
「いや、だが確かに花の蜜と薬草達を練り込んでゼリーにしたので味はあっても薬臭くて苦味とえぐ味、辛味なんかは残っていて…」
「何を言う。1ヶ月夕食が毒草という時もあった。亜人共は俺が死なない事をいい事に好き勝手やってくれたからな。あの時食べさせられた毒草サラダに比べれば感謝しかない」
そう言いながらボール一杯のゼリーを完食する。
「ヘルタヴォーグ?量を食べれば治ると言うのであればまだ食べるぞ?」
「…いや、適量を超えれば薬は毒に変わる。明日の朝は体内の毒素が排出されるから汗の色なんかが汚く臭いが正常だから気にするな」
「わかった」
そう言って3人は迎えにきたヘルケヴィーオに連れられて家に帰る。
「ジェイド、あの薬草ゼリーに耐えるとは流石だな」
「そうか?」
ジェイドが褒められたことを不思議がる。
内心、皆口が肥え過ぎだと思ってしまう。
「お前が耐えられるなら朝一番に飲むお茶を薬草茶にしよう。更に治りが早くなる」
「助かる」
ジェイドが素直に感謝を告げる。
「ヘルケヴィーオさん?そのお茶って…」
「薬草ゼリーの3倍は不味い。単純に薬草を煮詰めただけだからな」
ヘルケヴィーオが答えると後ろで聞いていたセレストが真っ青な顔で首を振る。
「ミリオン、お前もジェイドが入った薬湯に浸かるか?疲労回復にも効果があるぞ」
「え?」
ミリオンはお風呂と聞いてテンションが上がるのだが横ですごい顔をするセレストを見ていると気が引けてしまう。
「…でも…えっと…」
「まあ明日のジェイドを見てから決めると良い」
そう言って笑いながら歩くヘルケヴィーオ。
その時、工房の前を歩くと中から「何が今日はここまでとかぬかしてんだよオヤジ!ジェイドの為にも気合入れろって!」と言うワタゲシの怒鳴り声が聞こえてきた。
「少し場所借りんぞ、明日ジェイドと訓練で使うんだ」
そう言うと鉄を叩く音が聞こえてくる。
「ワタゲシ…」
ジェイドは嬉しい気持ちで工房を外から眺める。
「感謝してお前は訓練に打ち込むんだぞ?」
「ヘルケ、そうだな」
そうして家の前で別れる。
セレストは風呂場で眠って危うく死にかけてミリオンは「あー…城だったらお世話人に髪の毛を洗ってもらえたのに」と言いながら風呂に行っていた。
ジェイドも強烈な眠気から布団に入ると秒で眠ってしまった。




