第91話 ジェイドとワタゲシ。
「ほれ、盾」
「ありがとう」
ジェイドはセレストとは反対側の庭に行くとワタゲシから標準的な盾を渡される。
「お前が使う盾ってどんな大きさだったんだ?スモールか?ミドルか?ラージか?」
「父からは全て教え込まれた。最悪盾がない時にと代用出来る様に兵士の兜や民家の扉から鍋の蓋まで使わされた」
「へぇ、いいオヤジさんだな」
「そうだな。だが俺は復讐優先で盾を持とうとしなかった」
ジェイドが懐かしさを感じている顔から一瞬復讐者の顔になって言う。
「まあ、それでボロボロなんだから親の教えは守っておけって奴だな」
「違いない」
自嘲気味にジェイドが笑う。
「よし、まずは打ち込むから盾と棍棒で防ぐんだ。3分くらいは耐えろよ?」
そう言うとワタゲシが迫ってきて手に持っていた杖のような棒で殴りつけてくる。
それはかなりの速度で並の亜人ならこの段階で死んでいる。
「ふっ…」
ジェイドは打ち込みに合わせて息を吐いて力を込めて受け止めたりいなしたりする。
「…もう一段階力を発揮していいみたいだな!」
ワタゲシがそう言って加速をする。だがこのくらいの攻撃なら問題はない。ジェイドは盾だけでワタゲシの攻撃を防ぎ切る。
「くそっ、達人級の盾使いじゃねえかよ!」
「そうか?」
「あー…涼しい顔で返事しやがってムカつく!」そして3分はとっくに過ぎて20分程打ち合った所でワタゲシが手を止める。
膝に手を着いて息を整えながらワタゲシが「十分わかった」と言って手を止める。
「ミドルシールドは使えるのな。スモールならどうしてた?」
「受け止めずに受け流す。後はステップと棍棒を組み合わせる」
効かれた質問にジェイドが応えていく。
「…ラージなら?」
「周囲に気を張りながら完全に盾の中に入って攻撃に耐える。
そして徐々に前進して相手を追い詰めつつ攻撃をさせなくする」
「……お前の得意な盾は?」
「得意?」
そんな事は知らないと言う顔でジェイドが不思議そうにする。
「あー…好きな盾でいいから教えてくれ」
「ミドルシールドが1番いい。だが妹を守りきれなかった時から盾を信用していないんだ」
ジェイドが左手に持ったミドルシールドを睨みながら復讐者の顔になる。
「何があった?」
「亜人に襲われた日…城から妹と脱出しようとした際、前面からの攻撃には対応したが上からの攻撃に対応しきれなかった」
「その時右手は?」
「妹の手を握っていた」
棍棒を持つ右手を恨めしそうに見つめるジェイド。
「それじゃあ…」
ワタゲシが「仕方ないだろ?」と言おうとした。
だがジェイドは言わせない。
「仕方なくない。
俺は自分が許せない。
だから防御を…自分の身体を無視して復讐する事を優先した。
身体を守るならその分で亜人共を殺す」
「成る程な。じゃあこれからは盾を持て。仮にモビトゥーイが加護外ししてきたら復讐も出来なくなる」
「…違いない」
ジェイドは自分に呆れたため息をつく。
「後は気になった事とかあるからそれは明日だな。今日は薬湯に浸かって身体を治せ」
「わかった。ありがとう」
「いや、でも薬湯は臭いから気合入れろよな」
「ああ、頑張る」
そう言って帰ろうとしたワタゲシだったがヘルタヴォーグが「折角だ、お前も風呂に入っていくと良い。もしジェイドが逃げようとしたら押さえつけて湯船の中に沈めるのだぞ?」と言い出して仕方なく風呂に入る事になった。
「…おめぇ、随分立派だな」
「そうか?こんなもんじゃないか?」
「え?じゃああの剣士もか?」
「…あいつは謙虚だ。言ってやるな」
「…そうか、じゃあハルカコーヴェと風呂入ったら泣くな」
「そうなのか?」
「まあ、お前には勝てないけどハルカコーヴェも中々だぞ」
脱衣所でそんな話が出た後、浴場に行くと薬草独特の強烈な匂いがジェイドの鼻を襲う。
「ぐあぁ…、これだよ…くせぇ…」
ワタブシが涙目で鼻と目頭をおさえる。
「そうか?良い臭いだと思う」
「え?嘘だろ?」
「いや、奴隷時代に入れられていた牢獄の嫌な臭いが飛ぶ気がする。ずっと鼻の奥に残っていた気がして気持ち悪かったのだがここに居ると治りそうだ」
「…そりゃあ良かったな。でもお前って勇者なんだろ?なんで牢獄何かに…」
「…」
「仕方ねぇ、ゆっくり話せって。裸で風呂に入る仲なんだぜ?」
ワタゲシが匂いを無視して湯船につかる。
「くぅうぅぅ~、効くな~」
と言ったワタゲシだったがジェイドは入ると「ぐぅあぁぁぁぁ…」と言って苦しむ。
「おい!ジェイド!?」
「…なんだこの湯は…?」
息も絶え絶えにジェイドが言う。
浴場の外、脱衣場でヘルタヴォーグが「ジェイド、お前は魂の傷があるからしみると思うがしみた分、苦しんだ分だけ治りが速くなるから我慢しろよ」と言っていた。
「だとよ、頑張れるか?」
「当然だ…、早く治して亜人共を一日も早く皆殺す」
「…じゃあ痛みを紛らわすためにも何があったか話して楽になれって」
そういってワダゲシのペースでジェイドの過去を聞いて行った。




