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第90話 セレストとハルカコーヴェ。

セレストとハルカコーヴェは中庭にいた。

ハルカコーヴェは「まずはジルツァークの加護のままに剣を振るってください」と言うのでセレストは言われるままに剣を振る。

初級訓練として父から教わった剣の型を見せる。

セレストも一番長い時間訓練した型なので自信がある。


「速くて綺麗な太刀筋ですね」

「ありがとうございます」

ハルカコーヴェの評価はまずまずでセレストはひとまず安心した。


「セレストは顔も太刀筋もワイトに似ている」

「え?ハルカコーヴェさんはワイトに会ったことが?」

まさかワイトの名前が出てくるとは思わなかったセレストが驚いてハルカコーヴェに質問をしてしまう。


「あるよ。僕はもう300歳近いエルフだよ?99年前この街に来たワイトと手合わせをさせて貰ったんだ。

少し話をしながら打ち合おう。寸止めだよ?」

「はい」


ハルカコーヴェがやや細身の剣を抜いてセレストに斬りかかる。

本気ではないが十分に速い剣だ。


「セレストとワイトの太刀筋が似通っている…いや、同じなのはジルツァークの加護によるところだと思っている」

「加護?」


セレストは剣をいなしながら打ち返す。

それをハルカコーヴェはひらりと回避する。

並の亜人なら斬り捨てられる剣筋だがハルカコーヴェには通用しない。


「力加減や剣の振り方、重心移動なんかがそれだね」

ハルカコーヴェは器用にセレストの剣をいなしながら自分の攻撃も忘れない。

それは多少意地の悪い攻撃で初見の人間には回避や防御が厳しいはずなのだがセレストはいとも簡単にそれをいなす。

この事がハルカコーヴェに自身の考えが間違っていないと教える。


「今振っている剣、反撃も回避も出来ているのはセレストの経験に加護が合わさって居るからだと思う。初見での回避が難しい剣ですらセレストは回避した。

これはワイトの経験が活きているのだと思う」


ハルカコーヴェはかつてワイトに今の剣を見せた時にワイトは回避できずに、ハルカコーヴェは見事に一本勝ちをした。だがセレストは違っていたのだ。


「経験…」

「もしかするとジルツァークが生み出した人間の剣技なんてモノがどこか神の世界に全て集められて最適化されてセレストに与えられているのかも知れないね」

そう言いながら打ち合った剣をハルカコーヴェが止めるとセレストも止める。


「よし。次は必殺剣を見せてくれないかい?」

「はい。…真空剣!」


セレストが出した刃が空に向かって飛んで行く。


「木々を気にしてくれてありがとう。その剣なら僕も撃てるかな…それっ!」

ハルカコーヴェは苦も無く同じ刃を空に放つ。


「…そんな…」

セレストはジルツァークの…剣の勇者だけが使える剣技だと思っていたがハルカコーヴェが放てたことに唖然とする。


「別にジルツァークだけが全てではないよね?」

ハルカコーヴェが優しく微笑みながらセレストに言う。


「…」

「だから可能な限り僕の教えでエルフの剣技を習得してジルツァークの加護がない状況でも剣士としての務めを果たせるようになろうね」


セレストは思いもよらない言葉に驚いたが今ハルカコーヴェが放った真空剣を見てやる気になった。

そしてそれを見逃さないハルカコーヴェがセレストにやる気を確認する。


「僕の訓練は辛いと思うけど頑張ってね」

「はい!」


「さあ場所を変えよう」

「え?何処に?」


「タカドラの所さ、とりあえず今日はセレストの身体からジルツァークの癖を抜いて君の剣を呼び戻してあげなきゃね」

「え?」

ジルツァークの癖と言われて驚くセレストが驚きの声を上げる。


「だって、本来の君の太刀筋をジルツァークの加護が邪魔をしているからワタブシからヘタクソなんて言われるんだよ」

「…」


「だから君の太刀筋でジルツァークの太刀筋を飲み込んでしまおう。多分あの加護はセレストの剣がジルツァーク以上に動けていれば邪魔をしてこないはずだよ」


そう言うとハルカコーヴェは先に進んで行く。

セレストは慌てて後を追う。

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