第87話 敗北。
「今度は先ほどの様には行かないぞ!真空乱撃!」
セレストがそう言って剣を振りかぶった瞬間…
「神通力を持ってジルツァークの加護を無効化」
タカドラが突然力を使った。
「くっ!?重!!?」
セレストが慌てた声を上げて前につんのめる。
「セレスト!?アイスランス!…え?魔法?え?」
フォローで魔法を放とうとしたミリオンも何も起きずに慌てる始末だ。
「今だヘルケヴィーオ、攻撃をするんだ」
タカドラがそう言うとヘルケヴィーオが鞭を振り回す。あっという間にセレストとミリオンに鞭が直撃をする。
「ぐっ…」
「きゃぁぁぁぁっ」
寸止めになっていると言われても襲いかかって来た衝撃はとても強くセレスト達は無様に吹き飛ばされる。
「くそっ。ジェイド…どうした?防御に…」
「え!?ジェイド!!?」
セレスト達は今の攻撃に対応出来なかったジェイドに声をかけたのだが衝撃的な状況に思わず模擬戦を忘れてしまう。
ジェイドは何も出来ずに仁王立ちにのまま全身から血を出して気絶していた。
「そこまで。神通力を解除」
タカドラがそう言うとセレストは剣を軽く感じられたしジェイドの血もすぐに止まって傷は消え意識も取り戻す。
「勝負ありだな」
タカドラの声でヘルケヴィーオは戦闘体制を解く。
「ジェイド!」
「大丈夫!?」
「…ああ」
「今の攻撃の意味は理解したな?」
「…ジルとの繋がりを絶たれた俺達は死ぬしかない」
ジェイドは素直に認めて答える。
「そうだ。まだ神になり切っていない私が神通力で繋がりを取れたのだ。モビトゥーイも使えるだろう」
タカドラがため息をつきながら話す。
「剣が重く感じたのは…」
「その剣技、剣を軽く感じるのは全てジルツァークの加護あっての事」
「魔法が打てなかったのも…」
「その魔法はジルツァークが編み出した魔法だからだ」
「俺は?」
「それが先程言った罪深い魂だ」
セレストとミリオンの話にはタカドラが付き合っていたがジェイドの話にはヘルタヴォーグが答えた。
「女王?」
「ジルツァークの加護は超回復だがそれはジルツァークの加護で怪我の事実に超回復を、うわ被せただけで実際にはジェイドの身体は傷付き疲弊している。
身体の傷は誤魔化せても魂は傷を負っている。
ジルツァークとの繋がりを奪ってしまえば魂通りに衝撃も何もかもがジェイドに襲いかかる」
「それで罪深い魂?」
「そうだ」
「ジルツァークよ、これでもお前の勇者達はモビトゥーイに勝てると申すか?」
「…」
タカドラが当然の結果と言う顔でジルツァークに質問をするがジルツァークは黙り込んでしまっている。
セレスト達はそのままジルツァークが話すのを待たずにタカドラに質問をする。
「タカドラ様、僕たちはどうすれば良いのですか?」
「ふむ。セレストはまだ簡単だ。
エルフ流の剣術を学ぶのだ。
そしてジルツァークの加護なしで自身の技を再現できる様にするんだ」
「それでは私は?」
「魔法の総量はミリオンの才能だから後は基礎から学んで行くしかあるまい。ジルツァークの魔法以外もこの世界には存在する。それを使えるようになるのだ」
「後は俺だな」
「ジェイドはとりあえず魂の傷が消えるまでは簡単な訓練のみだ。
傷はこの街で食べられる栄養価の高い食事を摂れば回復も早いだろう。
今ジェイドが無事なのは昨晩の夕飯と睡眠のおかげだ。
人間界から来てすぐならショック死している。
訓練内容にしても盾を渡すから身体ではなく盾での防御を突き詰めよ」
「良いなジルツァーク」
「……そんな攻撃…モビトゥーイは…」
ジルツァークが暗い表情で下を向いてしまっている。
だがそこにジェイドが話しかける。
「ジル、俺は良かったと思う。想像もしていない攻撃だったがこれが亜人界や決戦中で無くて助かった」
「ジェイド…」
「だから落ち込む事はない。
剣と鎧が出来るまでに何とかしよう!」
「私…落ち込んで…」
「落ち込んでいないのか?すごい顔をしているぞ?」
「そうかな?」
「ああ。タカドラ、女王、ヘルケヴィーオ、よろしく頼む」




