第85話 名づけの理由。
ヘルタヴォーグの屋敷の裏手から山に登る。
ジェイドは山に登ってすぐに一つの事に気付いていた。
「この山は魔物の気配がないのか?」
「ほう、良い感覚を持っておる。
その通り。タカドラの気配によって魔物が寄り付く事はない」
「凄いのだな」
「まあな」
ヘルタヴォーグがドヤ顔で「ふふん」と言う。
「タカドラか、まるで高いところに住むからタカドラか?」
「なんだ、わかっているではないか」
「は?」
「高い場所に生きるドラゴンだからタカドラと神様が名付けて行かれた」
ジェイドは冗談のつもりで言ったのだがまさかその通りだったとは思わずに慌ててしまう。
「安直だな。ヘルケヴィーオやヘルタヴォーグの由来は?」
「知らん。気が付いたらこの名だった。ただエルフの名は伸ばすようにと言われておった」
「ドワーフは4文字までと言われていた」
「なんだそれは?ジル、理由はわかるのか?」
「…わかるけど…くだらないよ?」
ジェイドの横を跳ぶジルツァークが辟易としながら身振り手振りで話す。
「ほう。知りたいものだ。ジルツァークよ、何故今まで教えてくれなかった?」
「別にヘルタヴォーグ達は私を敬わないし、私の産んだ命でもないし、名前を気にするなんて思えなかったからよ」
「出来たら教えてくれないか?」
ヘルケヴィーオがジルツァークの顔を見て頼んでみる。
「んー…、ヒントだけならあげる。後はタカドラと話して私の機嫌が良かったらね。
私イライラしてるの。今落ち着いているのはジェイドがいてくれるからだからね」
「ジル?」
「気にしないで良いよジェイド。
すでにいなくなった神。
名前すらないあの神は最初にエルフを生み出したの。
そして次がドワーフ。
最後にタカドラを生み出したの。
それがヒント」
「よくわからないな」
「そうだな」
「だがジルツァーク、教えてくれてありがとう。
1つでも分かると嬉しいものだ」
「う…うん。それは良かったね」
ジルツァークがまんざらでもない顔で照れる。
「ジルツァーク様は名付けをどの様にしたんですか?」
ミリオンはずっと気になっていたのだろう。会話の切れ目に入ってきてジルツァークに質問をする。
「私?私は女神として皆に求めたのは顔を見て直感で名前をつける様に言ったよ。ワイトもそうして私が名付けたの」
「ワイトか、懐かしいな。男なのに透き通る様な白い肌。銀の髪色」
「それなのにあの髪は陽の光に当たると薄ら黄色になるのが美しかった」
「そして、あれだけの戦闘力を有しているのに本人は戦い以外では幼子の様だった」
「代わりに戦いになると容赦のない殺戮の化物に変貌を遂げていた」
ヘルタヴォーグとヘルケヴィーオがしみじみと話をする。
「ヘルタヴォーグ、ヘルケ…」
「歳を取ると物言いが若くないな」
「昔を懐かしんでしまった」
そう話すヘルタヴォーグとヘルケヴィーオの顔はとても幸せそうに見えた。
なのでジェイドがジルツァークに聞く。
「ジルはそう言う気持ちにはならないのか?」
「私?」
ジルツァークは少し困惑した顔をする。
「なんだ、共にこの約500年を生きた仲なのにつれないなジルツァーク」
「神とはそういうモノなのか?」
「そうかも知れませんね。
神様は不変の存在だとすれば人間には想像付かない500年も昨日の様に思えてしまうのかも知れませんね」
「ミリオン…」
「話はここまでだな」
「さあ、タカドラの住処に着いたぞ?」
ジェイド達の目の前に大きな神殿が聳え立っていた。




