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第83話 金で買える聖剣。

「上層界の事、聖剣の事、ワタブシとの約束。亜人界の事もモビトゥーイとの事もどれも忘れるなんてな。そうとしか思えん」

「…くっ…」


「ヘルケ、ジルもそれは後でいい。ワタブシ、済まないがもう一度機会をくれ。

俺達が亜人共を滅ぼす。そして今度こそ上層界の話を持って人間界に帰る」

「…ったく。顔つきや声はセレストが似てるのに目だけはジェイドが似てやがる。

とりあえず聖剣とやらを作ればいいんだろ?

ジェイド、ナマクラの無念、お前の妹の血で濡れた怒り…ナマクラの復讐を引き受けてくれないか?」


「何?」

「見たところお前の得物はその棍棒だろ?」

ワタブシが腰にぶら下がる棍棒を指さす。


「ああ、これは拾い物だ。俺は剣の知識は無いからな。とりあえずジルツァークの加護で死なない体に合った武器は鈍器だと思う」

「成る程な。じゃあコイツは剣じゃなくてお前のために打ち直す。使ってくれ」


「え?僕は…」

まさか聖剣が剣でなくなってジェイドに行くと聞いたセレストは気が気ではない。


「はぁ?お前がナマクラの形に合わせて鍛えて一人前になるのに何年かかんだよ?

仕方ねえからお前に合わせた剣を打つんだよ。後はそこの姉ちゃんも知らんぷりしてんなって。

お前にも武器を打つから使えよな。

魔法が得意で後ろに引っ込んでますなんてお荷物だからな」

ワタブシが後ろで話を聞いていただけのミリオンを捕まえて武器を用意すると言う。


「わ…私!?」

「嫌か?イメージしろって。

魔法の無効空間に連れ込まれてジェイド達から隔離された自分をよ。どうなる?助けが来るまで生き延びれる自信はあるか?」


「…」

「な?護身用に武器くらい持てって」

ワタブシに呆れられながら言われたミリオンは素直に頷く。

だがこのやり取りをジルツァークは快く思わない。


「え?そんな!必要無いよ!」

ジルツァークが慌てて前に出る。


「なんでそんな事が言えんだよ?」

ワタブシがジルツァークを睨む。


「何でって…」

「ジル?干渉値を払ってくれたのか?」

ジェイドがジルツァークを気にして質問をする。


「ううん…、でもワイトの時にはそんな攻撃は無かったから…」

「だがそれをやられればひとたまりもないぞ?」

畳みかけるようにヘルケヴィーオもジルツァークに意見をする。


「そうだな。ジル、ジルが不安なのは何だ?俺達が上層界で暮らしたくなる事が心配ならそんな事はない。俺達は待っている人たちのところに帰るからな」

「帰る?」

ジルツァークが少し意外そうに帰るという言葉を口にする。


「そうだ。帰るためにも生存率を高めなければならないだろう?それで言えばワタブシの提案は間違っていないと思う」

「うん…そうだよね。でも時間が経つとモビトゥーイが戦力を整えてしまうからあまり長居はできないからね?」


「わかっている。いつもジルには心配をかけてしまうな」

「ジェイド…」

ジルツァークが涙目でジェイドを見る。


「ありがとうジル」

「うん。私が見張るから無理はさせないね!」


「よし。じゃあ鎧も置いて…って何だこりゃ?」

ワタブシが呆れ返る。


「…亜人に奪われないように湿度の高い洞窟に隠した人間が居まして…」

「さらにそこにモビトゥーイが魔物を放って毒液を浴びてこの形に…」

ミリオンとセレストが申し訳なさそうに説明をする。


「鎧は完全に廃棄だな。鎧と武器だな。ところでお前ら金ある?」

「え?」

急にワタブシがお金の話を始める。


「言ったろ?武器が売れないって。金ネンだわ」

「いくらだ?」

ジェイドが金額を聞くと後ろでセレストとミリオンが息を飲む。


「鎧込み込みで金貨三枚」


これはワタブシはからかっているのか?

誠意を見たいのか?

ここで正しい金額を言うのが正解なのか?

3人が躊躇をする。



「…んだよ、払えないのか?足元見るのか?」

呆れたワタブシが3人に悪態をつく。


「…それで良いのか?」

「は?」


「ここで1つ聞くが金貨3枚に銀貨5枚を付けたらどうなる?」

「…お前、冷やかしはやめろって」

ワタブシが辟易としながら言う。


「いや、俺は本気だ。足りなければ外で魔物の一つも倒してくるぞ」


「え…、あ…、お…」

ワタブシが言葉に詰まって返答に困っている。


「金貨4枚だ」

「本当に支払ってくれるんだな!お任せください!!」

目の色と態度が変わったワタブシが直立すると3人に向かって敬礼をする。

…どうやら金貨3枚がワタブシの適正価格なのだろう。

聖剣と聖鎧が金貨3枚と知ったら人間界では大慌てになるだろうと思った。


「頼む。期待している」

「ジルツァーク!良い奴らだなコイツら!」


「…良かったね。3人が生き残れる装備を作ってよね」

「おう!」


ジェイド達はその場を離れて次を目指すことにする。

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