第82話 ドワーフのワタブシ。
「お邪魔します」
ジェイド達が工房に入るとむすくれた顔の男が待ち構えていた。
「ジェイド、セレスト、ミリオン、紹介する。彼がその聖剣と聖鎧の製作者、ドワーフのワタブシだ」
ごく普通の中年男性に見えるワタブシがジェイド達の顔を見る。
「99年振りに人間がくれば3人か。まずは挨拶なんていいからナマクラを出しな」
ワタブシが右手を前に出してくるので聖剣を見せる。
「おーおー、真っ二つじゃねぇか」
「済まない…。これには…」
ジェイドが説明をしようとするとワタブシが手で制止する。
「いらね。リーディングするから言う必要ねぇ」
「は?」
「自分の武器の軌跡くらい製作者なら魔法で追えるから黙っていてくれ。
あ?あー…、剣使い!こっち来い!」
ワタブシはセレストを呼びつけると無言で殴る。
「がっ!?な…何を?」
「ヘタクソ!不得意な剣でももうちっと上手く振るえよ!」
ワタブシがまさかの剣の勇者を捕まえて「ヘタクソ」と言って殴りつけたことが3人には衝撃的だった。
「え?」
「その腰の剣がお前の得物だろ?見せてみろ」
ワタブシがセレストの剣を持つと頷いてから返す。
「重さも長さも違う剣の練習くらいしておけよ。お前が使いこなせていれば刃こぼれくらいで済んだぞコレ?」
「え!?」
「てかなんで剣使いが剣に合わせて訓練しないんだよ?ジルツァークは何やってたんだ?」
ワタブシがジェイドの横に居るジルツァークを見る。
「ブルアに聖剣はなかったの。それに記述も残ってなかったからセレストのお父さんからこの剣だよ」
ジルツァークが仕方ないでしょ?と言う感じでワタブシに答える。
「んだよ。無茶苦茶じゃねぇかよ人間界。そもそもナマクラ捕まえて聖剣なんて呼ぶし。ワイトの野郎も約束を違えるしよぉ。セレストとか言ったな。お前、今のままじゃ死ぬぞ?」
「…」
剣の勇者としての自信があったセレストがまさか「ヘタクソ」「死ぬ」と言われるとは思っていなかったので言葉に詰まっている。
「まあいいや。先に次行こう。お前がジェイドだな?」
「…ああ」
ワタブシがジェイドの顔を見て名前を呼ぶ。
ワタブシはジェイドの何を知っているのだろうか、その事からジェイドが訝しむ。
「怪しむなって。ナマクラが謝ってる。お前の妹の事を悔やんでるぞ」
「…何?」
いきなりエルムの名前が出てきてジェイドが驚く。
「亜人共に殺されたってな。ナマクラも魔法契約をしていたから戦えたがそのせいでこうなったしな」
「どう言う事だ?」
「簡単に言えば、ワイトの野郎と契約したからコイツはワイトが持った時には軽くもなったし斬れ味も増した。
その代わり封魔の鞘が無ければワイト以外には持ち上げるのは余程の膂力がねぇと無理だし。倒すべき亜人共に持たれれば契約不履行で切れ味も落ちる。
もしも魔法契約がなければお前が振り回しても良かったんだ。人間界の剣と比べればナマクラでも十分強いだろ?」
「エルムの事はわかった。聖剣に罪はない。気にしないでくれ。だが、そもそも聖剣を何故ナマクラと呼ぶ?それにワイトとの約束とは何だ?」
ジェイドはワタブシとの会話で気になっていた部分を聞く。
「ん?何でか俺の武器は亜人共にも売れないし作ってもエルフ達にも行き渡って壊れるまで買い手がつかない。
その話をしたらワイトの奴が「僕がその剣で亜人を討伐して人間界に帰って喧伝したらきっと飛ぶように売れるよ!」って言ってこのナマクラ捕まえて「この剣がいい。コレをくれ!」って言うから魔法契約をして渡したんだよ。それなのに、約束は守んねえしなぁ」
ワタブシが困り顔でやれやれと言う。
「…済まない。恐らくだがその記述が人間界に無い」
ジェイドが申し訳なさそうにワタブシに謝る。
「はぁ?なんで?ジルツァーク!」
「多分モビトゥーイに3人に分けられた時に記憶が曖昧になったんだと思う」
「ふっ、都合のいい記憶喪失だな」
「ヘルケヴィーオ!」
ヘルケヴィーオがジルツァークの回答に疑問を抱くとジルツァークが怒る。
だがヘルケヴィーオは気にしないで続ける。




