第81話 エルフとドワーフ。
旅の荷物は家に置かせて貰い、身軽な恰好で門に行くとヘルケヴィーオが待っていた。
「遅くなった」
「構わない。では工房に行こう」
「工房?そうだな。
普通に考えれば聖剣と聖鎧はそう言う場所で直すな」
ジェイドがジルツァークとヘルケヴィーオと並んで歩き、セレストとミリオンはその後ろを歩く。
見慣れぬ景色にセレストとミリオンがキョロキョロしてしまう。
「ヘルケヴィーオさん。昨日ジェイドが聞いたけど街の方々は本当にドワーフの方も?」
「ああ。今すれ違った女性もドワーフだぞ」
「わからない。全部僕達と同じ人間に見える」
セレストが振り返りながら言うとドワーフと言われた女性が笑顔で手を振る。
「ヘルケ、少し聞いてもいいか?
ジル、勿論ジルが嫌な質問なら昨日みたいに止めてくれ」
「うん。わかったよ」
ヘルケヴィーオが振り返りジルツァークが頷く。
「何だ?答えられる事なら遠慮なく聞いてくれ」
「亜人共に性欲や繁殖の概念がほぼ無い。それらに目覚める個体はレアケースだ。エルフやドワーフはどうなんだ?」
「ジルツァーク」
「いいよ。答えてあげて」
「ふむ。かなり偏っているが種の繁栄としての性欲もある。
昔ワイトに聞いたが性欲も人間のソレとは違っていてかなり独善的だそうだ」
「じゃあ個体は増え続けるんだな」
「そうなるな。
だがエルフとドワーフは上位種で長命だから中々子供は授かれない。
私も200年目に子を授かったきりだ」
「何?ヘルケは既婚者なのか?」
「そこからか。しまった。
エルフとドワーフには婚姻の概念がない。
そうだな。何故か婚姻…結婚についてよくわからないのだ」
「わからない?」
「独占欲や種族の為に子を残したい。目の前の優れた種が欲しいと思う事があってもそれが愛ではないのだと思う。ワイトが教えてくれた異性に対する慈しんだり愛でたりする気持ちが芽生えない」
ヘルケヴィーオが少し困った顔で説明をする。
恐らくかつてワイトにも説明をした時に困ったのだろう。
「ではこの家で暮らしている家族は?」
丁度横の家では男が「行ってくる」と言い女が「行ってらっしゃい」と見送っていた。
「損得だよ」
「ジル?」
ジルツァークがとても嫌なものを見る目で言う。
「損得勘定。独善的な肉欲。そう言う気持ちで共に暮らしているの。
あの男はドワーフで「行ってくる」と言ったのは工房に仕事をしに行ったか、近くの山に鉄なんかを採掘しに行ったんだよ。
女の方はエルフでドワーフに外仕事を任せている間に家事をして残りの時間を自己研鑽に当てる事が出来る。
ドワーフもエルフを養う事で家の事もやって貰える。
ドワーフとエルフは子を授かれないけど性交渉は可能だからお互いの欲を受け止め合えたんだよ」
そう言ったジルツァークの冷たい目が印象的だった。
「成る程な。ありがとうジル。ヘルケの子はどうしているんだ?」
「巣立った。種としての父親ももう何の縁もない。子にしても巣立ったからほぼ会う事もない。私は巣立ちまでキチンと育てて責務は果たした」
「そう聞くとエルフも色々あるんだな」
「そうか?まあ良い。もうすぐ工房だ」
鉄の焼ける臭いと鉄同士がぶつかる音が聞こえてくる。
「ここで聖剣と聖鎧を直して貰う。
…今になって思ったがお金は足りるのであろうか?」
「…あ」
「…しまった」
「そんな気にする事はあるまい。
お前達が思うよりは安いと思うぞ」
そう言ってヘルケヴィーオが一軒の工房に入って行った。




