第77話 エルフの住処。
ジェイド達は目の前に広がったエルフの住処の景色に言葉を失った。
整った美しい街並み。
まるで城のような石畳。傍目に民家とわかるのに城のような壁。
いや、自身の城でさえこんなに美しくはない。
鉄がうまく使われていて柱に補強として入っているのがわかる。
照明も綺麗で明るい光を放っている。
先程、草原に降り立った時も思ったが、ここは人間界とは一線を画しているのだ。
「どうだ?美しいだろう?」
ドヤ顔のヘルケヴィーオがジェイド達に声をかける。
確かにこれだけのものを見せられれば絶句してしまうしヘルケヴィーオもドヤ顔になる。
「え…えぇ…」
「本当だ…何と言う美しさだ」
ミリオンとセレストが何とか言葉を繋げている。
「ヘルケ、この違いはジルが嫌がる質問か?」
ミリオンとセレストよりは冷静なジェイドがヘルケヴィーオに質問をする。
「だろうな。これをジルツァーク抜きで見せたくなくて慌てていたのだろうからな」
ヘルケヴィーオは目を瞑るとそう答えた。
「そうか」
「何故かとは問わないのか?」
ヘルケヴィーオが不思議そうにジェイドに問う。
「ジルが嫌がるからな」
「そうか。食事だがどうする?恐らくお前達は飛び跳ねると思うぞ?」
ヘルケヴィーオがニヤりと笑いながら聞いてくる。
「…先に俺が食べて安全を確認してからセレスト達にも配って欲しい。金は足りるな?」
「問題ない」
「1つだけ、今日は後1つだけ聞きたい。それを聞いたら家に案内をしてくれ」
「何だ?」
「街に居る人間は皆エルフなのか?」
「ああ、中にはドワーフも居るがジェイドには見分けはつくまい」
「そうか。わかった」
そう言ってジェイド達は街の離れにある家に通された。
家の外観はとても綺麗で今も誰かが住んでいる風に見える家だ。
もしかしたらヘルケヴィーオの家なのかもしれないと思いながら中に入った。
「ここは今誰も使っていない家だ」
「その割には綺麗だな…」
まさかの発言にジェイドが驚く。
「昨日、ジェイド達に使わせるつもりで掃除をしたんだ」
「そうか。世話になる」
荷物を下ろすとヘルケヴィーオが部屋の設備を説明する。
台所も風呂にトイレも人間界より綺麗で使いやすそうな物だった。
「夕飯は持ってきても構わないな」
「頼む。早く寝て明日に備えたい」
「ふふ、早寝は大事だな」
「ヘルケヴィーオさん?」
ヘルケヴィーオの言い方が気になったミリオンが聞き返す。
「ジルツァークが来ないと話にならないだろ?」
「そう言う事だ」
ジェイド達は持ってこられた料理にも驚いた。
ただ焼いた風に見える肉すら味が違っていて野菜も同じトマトにしてもレタスにしても人間界の物と違っていた。
味が濃い。何というか食材からも生命力を感じるのだ。
「こ…これは、美味いな」
「そうだろう?」
またもドヤ顔になるヘルケヴィーオ。
「特別な毒とか中毒性になるような…」
「使ってはいないよ。普通に上層界で育った肉や野菜だ」
「…怪しいからと言ってセレストとミリオンの分まで食べてしまうか?」
ジェイドが思いもよらない事を言い出す。
その顔は真剣そのもので聞いているセレストとミリオンは驚く。
「ジェイド?」
「どうした?落ち着け!」
食事の虜になったジェイドが軽く混乱しながらセレスト達に料理を勧める。
2人も食べてみると味が圧倒的に違っていて驚いた。
「わぁぁぁ…美味しい」
「これ…が…上層界の食事」
トマトを一かけら食べただけのミリオンが感嘆の声を上げ、セレストが言葉に詰まりながらパンをかじる。
「ごく一般的な…な」
3人の驚きを見ていたヘルケヴィーオが呆れ笑いをしながら答える。
「聖剣と聖鎧が直るまで滞在するんだから楽しんでくれ。まあ慣れ過ぎて人間界に帰りたくないとかはならないでくれよ?私がジルツァークに恨まれてしまう」
ヘルケヴィーオはそう言って笑いながら帰っていく。
「…ジェイド」
「わかっている。水まで美味い」
ジェイドが水を飲みながら答える。
「いや、そうじゃない。ジルツァーク様はこれを恐れて?」
「ああ。それで連れてきたくなかったのかも知れない」
食後、ジェイド達はジルツァークとの約束もあるからさっさと風呂に入って眠る事にした。
だがここでも問題はあった。
「石鹸が良い匂いで汚れや嫌な臭いが簡単に落ちる。お風呂も何故か凄く気持ち良くて…」
そう言いながらミリオンが2時間も長風呂をしてしまっていたり…
「布団に入って静寂の中に身を任せると、空気の匂いが違うのがわかる。それに外がいつまでも煌々としていて眠れない…」
セレストがそんな事を言いながら自室をうろつく。
ジェイドは気に止めることもなく1人で先に眠る。
寝室は4部屋あったので各々が気兼ねなく眠らせて貰っていた。




