第69話 大軍のセウソイ。
気持ちのいい風と草原。
こんな景色は人間界でも見た事がない。
だがそこは亜人が埋め尽くして居た。
「すごい量だな」
「どうする?逃げるか?」
「ジェイド、アトミック・ショックウェイブで蹴散らす?」
次の指示が欲しいセレストとミリオンはジェイドに指示を仰ぐ。
「…少し待て。どうせ馬鹿な亜人達の事だ…」
「うはははは!恐れ入ったか勇者共!」
そう言って亜人共をかき分けてきた筋肉質の亜人。
「ほらな…出てきた」
「奴が大将首か?」
「何をコソコソと言っている。私は亜人が五将軍の1人!大軍のセウソイ!この大軍こそ我が力!たった人間3人で何が出来る!」
セウソイは大きな金棒を振り回すと力強く名乗りを上げる。
「名を名乗るがいい!人間よ!スゥやエムソーを倒した実力を見せてみろ!」
「バカだな…」
ジェイドが鼻で笑う。
「それに想定通りの敵が出てきやがった。ミリオン、セレスト、作戦を告げる。良いな?」
「どうした!名を名乗れ!」
その間にジェイドはミリオンとセレストに作戦を告げる。
「了解。それしかないわね」
「ああ、だが俺の楽しみを奪うな。セウソイが死ぬか俺が戦闘不能になるまでは待ってろよ」
ジェイドが嬉しそうに笑う。
「ジェイド、僕はそれだけで良いのか?」
「バカヤロウ、お前が1番大変だからな?気張れよ」
セレストに目配せをする。
ジェイドの中ではセレストが要なのだ。
そして無視をされた事で血管を浮かばせながら怒るセウソイを見て呆れるジェイド。
「仕方ねえ、付き合ってやる。
俺はお前達に滅ぼされたグリアの王子、ジェイドだ。
俺がお前達を地獄に味わせてやる!」
ジェイドの名乗りに気をよくしたのだろう。
嬉しそうな顔でセウソイが笑う。
「お前が不死身の勇者か…!
面白い!不死身のスゥを倒せると言う事は、不死身は不死身に非ず!
絶望を味わせてから殺してやるわ!残りの2人は名を名乗らぬのか!」
金棒でセレストとミリオンを刺しながら名乗るように迫るセウソイ。
「へっ、俺を倒したら次があいつらだよ」
ジェイドがもう一度ニヤリと笑いながら駆け出すと目の前の亜人を1人殴り殺す。
「セレスト!」
「応!真空乱撃!大真空!」
セレストが放った真空波はジェイドごと目の前の敵を斬り付けると次に更に大きな真空波を出す。
だが大きな真空波は傍目に見てコントロール性が悪くただ強く硬い真空波が前に飛ぶだけだった。
真空波がジェイドの道を塞ぐ亜人共を斬り伏せるとその隙にジェイドが前に出る。
目指すのはセウソイなのだ。
そしてそのセレストはミリオンの手を掴むと「行くぞ!」と言って少し走ると途中からミリオンを抱き抱えて穴の方に戻る。
「逃げるのか!?」
セウソイがセレスト達を見て慌てるが、ジェイドが「んな訳ねぇだろ!お前達は皆殺しだ!」と叫びながら真空波で隙間が出来た亜人の群れに突っ込んでいく。
「セレストの奴、良い仕事をしやがる!」
ジェイドは思いのほかセウソイに近づけた事に喜び、ミリオンはセレストに抱えられたまま追いかけてくる亜人達に向けてアイストラップの魔法で足止めにすると深く集中をする。
「穴に入ったよミリオン!」
「宝珠よ!ポイズン・ウォール!」
ミリオンは穴の出口を巨大なポイズン・ウォールで塞ぐ。
ポイズンウォールの力で亜人共は即座に毒の力によって死んでいく。
これがジェイドの戦法。
だがポイズン・ウォールは四角形。
今回の発動は穴の中。穴は楕円形なのでどうしても横に隙間が出来る。
その隙間から現れる亜人共をミリオンに近づかせないのがジェイドに言われたセレストの仕事だった。
セレストは早速現れる亜人共をこれでもかと斬り伏せて行く。
ミリオンは息を整えると天を仰ぐ。
「ジルツァーク様!」
「なに?」
ミリオンがジルツァークを呼ぶと背後に現れるジルツァーク。
「ジェイドからです。ジルツァーク様にお願いがあると。モビトゥーイに多少の干渉値を払っても壁の向こう、ジェイドの戦いを見せてもらえとの事です。可能ですか?」
「…うん。それは殆ど干渉値を使わないからやるよ!」
そう言うと壁の辺りが眩しく光ってジェイドの姿が映し出される。




