第68話 穴の先で待つ者。
日の出とともに現れたジルツァークを連れてジェイド達は穴に向かう。
今穴はミリオンのポイズン・ウォールによって完全にふさがれている。
カナリーの心配を言うのであれば若干の隙間はあるので壁の崩壊は無いと思う。
正直カナリーやフランに会うまでのジェイドは復讐を抜きにすればこのまま穴を塞いでしまえば人間界は平和になるのではないかと思っていた。
だが壁の維持には聖女の命が不可欠で誰かの犠牲の上に先送りされる平和を受け入れるわけにはいかなくなった。
最短最速で亜人共を滅ぼしてモビトゥーイを殺す。
そして世界に平和をもたらす。
ジェイドはそう決めていた。
「よし、ポイズン・ウォールを解除してくれ」
「わかったわ」
ミリオンがポイズン・ウォールを解除すると穴の全貌が見える。
穴から伺える壁の厚みは大体50メートルくらいでちょっとしたトンネルになっている。
穴の中では亜人達があの手この手を尽くしたのだろう。
多数の死体と槍や鉄の弾が散乱していた。
「何だこの玉は?」
「亜人の力で投げつけてくるのかしら?」
ジェイド達には覚えのない鉄の玉が転がっていて不思議に思う。
そんな事を言いながらトンネルの出口に差し掛かる。
外側が明るくてトンネルの中からでは外の様子が伺えない。
「嫌な予感がする。
ミリオン、穴の外にアトミック・ショックウェイブだ」
ジェイドが躊躇なくミリオンに指示を出す。
「了解。でもこの距離だとこっちにも…」
「わかった。俺が残る。セレストとミリオンは元の入り口に引き返せ。お前達に向けてエア・ウォールを5枚張る。その影で放とう」
「ジェイド、それならエア・ウォールとラージボムにしましょう!仮に穴の向こうに何も無くてもそれなら損害は少ないもの」
「そうだな。不発の上に疲れた所を狙われても面白くない。それで行こう。
もし悲鳴なんかが聞こえたらセレストが前に出て真空乱撃で追い討ち。
ミリオンは前面展開のブリザードブレスは使えるな?」
「了解だ」
「使えるわ」
「それで一気に穴から抜けて状況を確認する。今のところの問題は穴の先に居るかもしれない敵が見えない事だ。後は分断される事は避けたい。
本来なら俺が前に出て安全確認をしたいがそれで分断されて、俺と言う盾のない状況でセレストとミリオンが倒されるのは笑えん。俺が2人を何が何でも守るから決して俺から離れるな」
そう言うとジェイドが前に出る。
「ミリオン!」
ジェイドは振り返ることなくミリオンに指示を出す。
それはこの旅で培ってきた信頼がなせる事だった。
「ラージボム!」
ミリオンの魔法はトンネルの出口で発動をすると大爆発を起こす。
そして爆風と共に多数の悲鳴が聞こえてきた。
「ちっ、やはり待ち伏せて居たか!セレスト!」
「任せろ!」
セレストは前に走り真空波の届く距離になると剣を抜く。
「真空乱撃!」
剣から飛び出す真空の刃がトンネルの出口目掛けて飛んでいくと絶叫が聞こえる。
「くそっ、総数が見えないのが面白くない!セレスト、俺の後に続け!
ミリオン、俺達から離され過ぎずに後方に注意しながら魔法の用意!」
ジェイドが走ると後ろをセレストが続く。
そしてその後ろをミリオンが続く。
「発動します!ブリザードブレス!」
ミリオンから扇状にはなたれた痛いほどの冷気が超高速で辺りを凍らせる。
トンネルの出口で待ち構えている敵が凍り付いていくのだろう。
絶え絶えの悲鳴が聞こえてくる。
「ミリオン、そのまま前に出られるか?」
「行けるわ」
「よし、横は俺が守る。セレストは強襲に備えろ!」
そして前に出ると矢が飛んでくる。
「効かん!」
ジェイドが矢を落としたり身体で受け止めながら前進するミリオンを守る。
「ジェイド!」
「矢なら気にするな!セレスト、待ち伏せに気をつけながら抜けるぞ!」
そしてトンネルを抜けた先は草原だった。




