第65話 それぞれの朝。
もう外は夜明け前だった。
怪しまれてはいけない。
フランはそう思いながら「やな夢見た」と言ってジェイドの布団に潜り込む。
「ん?フラン?」
「やな夢見たの。ジェイドが怪我をするの…」
「俺が穴に向かうから気になったんだな。俺は体の勇者だ。そんな夢は夢だ。気にするな」
そう言って抱き抱えるともう少しだけ眠る。
ジェイドもフランも夢の出来事を口にしないからお互いがお互いを不安になるが何も気にする事はないとお互いに言い聞かせて眠りにつく。
夜明け。
ジェイドを起こしにきたミリオンがジェイドのベッドで眠るフランを見て微笑む。
その声でジェイドが起きる。
「すまない。起きるのが遅くなった」
「いいのよ。一番の早起きはセレストよ。さっき声が聞こえたもの。あの感じだと睡眠不足みたい」
ミリオンが小屋の方を向いて説明をする。
「笑えるな」
「笑ってはダメよ」
ジェイドとミリオンは身支度を済ませるとカドとアプリに挨拶をする。
「見送りは不要だ」
「おう。じゃあここでお別れだな」
「御武運をお祈り申し上げますね」
「はい。行ってきます」
簡単な挨拶でジェイド達はカドの家を後にしてセレストの所に行くとセレストは目の下にクマを作っていて「ジェイド…、僕を男の中の男なんて言って…」と恨み節を言う。
「俺の正当評価だが?」
「覚えておけよな」
セレストが何に苛立っているのかはすぐに判明した。
村から出る際に村の女性達が…
「セレスト様!御武運を!」
「セレスト様の優しさは忘れません!」
「セレスト様!私はずっとお待ちしております!」
「お慕いしております!」
「セレスト様!」
と涙を流して見送っていたのだ。
女性達が見えなくなった所でジルツァークが現れて「なになに?何があったの?」とセレストに聞く。
「ブルアの王子と既成事実をと言って女性達が夜中に殺到しました。
ですので一晩中彼女たちの話を聞いて優しく頭を撫でていました。
彼女達は自身の身の上話をする相手が欲しかったのでしょう。
始めは僕を奪い合う様に牽制し合っていた彼女達も次第に手を取り合って泣き出しました」
セレストが思い出すように話すのだが整った顔が時折曇ったり顔をしかめたりするので色々あった事が伺える。
「そうなんだ。じゃあ無事に帰ってこないとね」
「はい。そう言えばジェイドはどうだったんだ?」
「どう?」
「フランちゃんに随分と懐かれていたじゃないか」
「へぇ〜。そうなんだ」
ジルツァークが嬉しそうに反応する。
「終わったらカナリーの墓参りをする事になった。ジルとセレストも行くだろ?」
「良いのか?」
「ミリオンとアプリもくる」
「じゃあ皆で行こうね」
「はい!ジルツァーク様!」
「ふふふ。良かったねジェイド」
「何がだ?」
「だって、リアンにその御守りをくれたお婆ちゃんやフラン達。皆がジェイドの帰りを待ってくれているんだよ?前みたいに復讐だけが全てでは無くなったよね?」
「…そうだな」
「だから嬉しくてさ〜」
ジルツァークはニコニコと笑う。
ジェイドは平静を装いながらあのフランの見せた夢を気にしていた。
ジルツァークにも言えないエクサイトの行く末。
ジルツァークではない別の女神の事。
「だがとりあえずは亜人を根絶やしにする。まずはそれだ」
「頼もしいけど、そこはブレないんだな」
「ブレようがない。それが俺だ」
そんな話をしながら一行は穴を目指す。




