第63話 信頼を寄せる男の中の男。
「…妹は、カナリーはどうでしたか?」
カドの姿が小さくなってからアプリがジェイドにカナリーの事を聞く。ジェイドは申し訳なさそうに「グリアは亜人に荒らされていたんだ…」と伝える。
そのまま家族の亡骸を無事に見つけられた事、家族と共にかつて自分が使っていた部屋に眠ってもらった事…
「もう、グリアは亜人にも人間にも荒らされたく無かったんだ…。
だからミリオンに頼んで城ごと穏やかな海の底に沈めたよ。カナリーはゆっくり休めたと思う」
ジェイドが悔しさのこもる顔でアプリに伝える。
その事でフランも驚く。
「海に?」
「沈めた?」
「ああ、大魔法で地面に亀裂を走らせてそこに城を沈めた。
グリアは海が近かったから海より低くする事で海に沈めたんだ」
批難されるかもしれない。
ジェイドはそう思っていたが違っていた。
「…うわぁ。お姉ちゃん喜んでると思うよ」
「そうね。私達は海なんて話でしか聞いた事ないもの」
アプリとフランが顔を見合わせて喜ぶ。
「ありがとうジェイド!約束通りきれいな所にお姉ちゃんを連れて行ってくれたんだね」
「いや…、俺は本当なら好きだったコスモス畑に…」
「それは残念だけど海ってキラキラ光って綺麗なんだよね?いいなー。ジェイドー。もしも戦いが長引いて私も死んじゃったらグリアの海に沈めてよー」
フランが人懐っこい顔でジェイドにお願いをする。
「何を言う?亜人共はあっという間に皆殺してくるぞ?」
「えー、とりあえず約束してよー。私も海に行きたい!」
「…フランは海に行きたいんだな」
「うん」
「じゃあ戦いが終わって平和になったらグリアまでカナリーに会いに行くか?」
「え!?いいの!!?」
「ダメなのか?アプリ?」
「ジェイドさん違うわよ。一緒の旅は嫌じゃないのか?ってフランが聞いているんです」
アプリがジェイドにフランの心境を説明する。
「俺は構わない。アプリもミリオンもどうだ?」
「ええ、平和になったら行きましょう」
「私も良いんですか?」
ジェイドが「構わないぞ」と言うとアプリは嬉しそうに笑う。
「ねぇ、ジェイドは今日泊まるよね?」
「まあ可能ならそれが良いのではないかと話していたが平気か?」
「うん。大丈夫だよねお姉ちゃん?」
「あー…、うん。お父さんに相談してみるわ」
その時のアプリの顔と言い方でジェイドが察する。
「いや、問題ならば俺は野宿で構わない。
ミリオンだけでも頼めないか?」
「ダメなの!私がジェイドと寝るの!」
「何?フラン?」
フランが突然ジェイドと寝ると言い出す。
ジェイドはここまで懐かれる理由がわからずに困惑してしまう。
「ミリオンお姉ちゃんはお姉ちゃんと寝るの」
「あのねフラン?そうなるとベッドが足りなくてね…」
「あの村の真ん中の小屋があるでしょ!」
フランが当然のように村の真ん中にある小屋を指さすとアプリが「えぇ…」と凄い顔をする。
「アプリ?何が問題なんだ?」
「あ…、あのね…。あそこは村の持ち物で…」
「ふむ」
「村の女達が次の聖女を授かる為の小屋で…」
「なるほど。皆で使っていて泊まれるのかわからないと言う事だな」
「違うわよ!」
ジェイドの回答が的外れもいい所なのでアプリが声を荒げる。
「わかっている。フランとミリオンが居るから気を使った」
「…あ、そうなの?勿論シーツなんかは変えさせて貰いますけど、やはり家全体に匂いが染み付いていると言うか…」
そう言いながらアプリが赤くなる。
「平気だろ?」
「本当ですか?
ジェイドさんとミリオンさんがウチに泊まるとあの美形さんが寝るんですよね?
ジェイドさんはムッツリと言っていましたがあの人ってムッツリと言うよりウブですよ?
匂いに惑わされて…なんて事は…?」
アプリは純情なセレストがそう言う部屋の匂いに当てられて暴走をしてしまうのではないかと心配していたのだ。
「大丈夫だ。奴はお粗末でそんな気概はない。奴の妹もお粗末と言っていた」
ジェイドが何の問題もないと言う顔でアプリを見るがアプリはお粗末だって暴走するでしょ?と言う思いで「えぇ…」と言う。
「ではミリオンが泊まるか?」
「わ…私!?」
ミリオンは急に振られて真っ赤になる。
あの部屋がどういうモノかは今の会話で察した。
別に聖女を授かる為に行われている事を否定する気なんかは無い。
だが、自分が寝るベッドで村の女性たちが代わる代わる不特定多数の男と肌を重ねると思うと恥ずかしいし匂いがあると言われると緊張してしまう。
「ダメよ!勘違いしたフリの男共が大挙して夜通し…」
「ふむ。仮にそんな事があればレドアの兵士に村が滅ぼされるな」
アプリの話通りならミリオンとあわよくばと思って夜中に侵入する男どもが大挙してくると言う。
まあ、あのレドア王がそれを知って平静で居られる訳が無い。
「だから…」
「ならセレストが適任だな。大丈夫だ、奴は粗末だが男の中の男だ。悪いようにはならない」
ジェイドが真っ直ぐに当然と言う顔で宣言する。
「え?」
その真っ直ぐな顔に驚いたアプリがジェイドを見る。
「だからセレストから女子達に群がることもなければ偶然を装った女子達に変な真似もしない」
「あら、信じていらっしゃるんですね」
アプリがジェイドの真意を理解して笑う。
「ああ。奴はいい奴だからな」
ジェイドは恥ずかしげもなくハッキリと言い切った。
そこに買い出しのめどが立ったセレストがカドと一緒に戻ってきた。




