第60話 輝きを失った聖鎧。
聖鎧は洞窟の最深部に置かれていた。
置かれていたには置かれていた。
「お父様…」
ガッカリとしたミリオンの声。
「まあ…4年もこんな高湿度の所に鎧を置けばそうもなる。それにエムソーが連れ込んだ魔物達の毒の事もある」
ジェイドは半ば諦めがついた声を出す。
「だがこれでは聖剣に続いて聖鎧まで…」
セレストの絶望感のある声。
聖鎧は腐食していた。
恐らく湿度の他にも毒カズラが鎧の周りに群生していた事から毒カズラの毒が聖鎧にかかったのだと思う。
かつてワイトの伝説に書かれていた白銀の輝きは見る影もない。
「致し方ない。聖剣と共にドワーフに頼む事にしよう」
ジェイドは聖鎧を回収すると洞窟を後にした。
洞窟には毒の罠が多数あったが前もって作っておいた解毒薬によってミリオンもセレストも無傷で踏破できた。
ジェイドは食らうたびに毒についてアレコレ語るのでセレストからは「毒ソムリエ」と呼ばれる程だった。
「とりあえず今日は帰りましょう」
外までわずかなところでそう言ったミリオンがジェイドに「まだ行くところがある」と言われる。
「何処に行くの?」
「レドアの水源に行くぞ」
そう言われて外に出るとミリオンに道案内をさせる。
ちなみにジルツァークは聖鎧を見てショックを受けていた。
「干渉値をモビトゥーイに渡してでも4年前に止めるべきだったよ…」
「だがしなかったおかげで今があると思う事にするからジルは気にするな。
それにエムソーが鎧を目指すのなら城にあれば城が大変な事になっていた」
「うん。ありがとうジェイド」
ジルツァークは嬉しそうに言うと「また離れるから何かあったら呼んでね」と言って消える。
そして水源は沼から少し城に向かった所にあった。
「よし、セレスト。お前の作った解毒薬を全て入れるんだ」
「なに?」
セレストが解毒薬入りの鞄を大事そうに抱えながら聞き返す。
「エムソーが何処かに毒を仕込んだ恐れもある。奴の毒なら奴の解毒薬が効く。その為に大量生産をしたんだ」
そう言われたセレストが大量生産の意味を理解して嬉しそうに水源に解毒薬を入れていく。
だが城に帰ると一足遅く毒の被害が出ていた。
頭痛に腹痛、中には血を吐く者もいた。
「ちっ、エムソーめ…。だが安心しろ。水源に解毒薬を入れてきた。
軽度のものは水を飲めば次第に良くなるが症状の重いものは俺たちの元に寄越すんだ。
それとは別に兵士で隊を編成して水源周りに異常が無いかを見てくるんだ」
そう言ってジェイド達は王妃の館を借り受ける。
兵士にテキパキと指示を出して解毒薬の材料を取ってこさせるとこれでもかとセレストとミリオンが庭で解毒薬を作る。
それを見ていた城の薬師達も作り方を教わって解毒薬を精製する。
結局。夕方には国のほぼ全員が解毒薬を飲むことが出来た。
ジェイドは館の庭を提供してくれた王妃に感謝を告げる。
「いいのよこれくらい。お安いご用よ」
王女が嬉しそうにニコニコと笑う。
残りの身動きの取れない人々には兵士達が家々を回って解毒薬を配る。
ようやく毒の話が落ち着くと日は沈んでいた。
ジェイド達はレドア王に報告に向かう。
「…聖鎧の事は申し訳なく思う。そして毒の件は感謝する。そして今兵士から報告があった。水源から城にかけて五ヶ所で毒性魔物の死骸が放り込まれていた」
「いえ。役に立てて良かったです」
「ジェイドがエムソーから解毒薬の作り方を聞き出してくれて助かりました」
「まったくだな。ジェイド、その手腕は見事だ」
レドア王が昨日までの懐っこい顔ではなく王の顔で感謝を伝える。
「いえ。レドア王、お願いを聞き入れてくれますか?」
「願い?申してみるがいい」




