第56話 待ち伏せられた洞窟。
ようやく聖鎧が隠された洞窟に入った3人だったが、セレストとミリオンは顔をしかめる。
「酷い臭いだ…」
「何この瘴気…」
「嫌な予感がするな…」
嫌な予感というものはよく当たるもので洞窟内は毒ウサギに毒トカゲ、毒カエルに毒蛇、ありとあらゆる毒魔物の巣窟になっていた。
ジェイドはウネウネと動いている植物の魔物に興味を持つ。ミリオンに聞くと毒カズラと言う植物でコイツの毒だけは初見だと言っていきなり葉のような袋に溜まった水を飲み干してしまう。
「ジェイド!?」
「ぐぅっ…あぁぁぁああ!?」
突然苦しんで倒れ込んだジェイドはしばらくのたうちまわったが「覚えた」と言って起き上がると血反吐を吐き捨てる。
「ジェイド無事なのか?」
「ああ、これは内臓をドロドロに溶かすタイプの毒だな。もう慣れた。味も匂いも覚えたぞ」
そう言って満足そうな顔をする。
スワンプワームとの戦いで血まみれになり今も血反吐をはいていてちょっと怖い。
「慣れたってお前…」
「慣れておかないと困るだろう?亜人が使って来たらどうするんだ?初見だと俺は助かっても慌ててしまうだろ?いいか、亜人界では常に俺が先に食事をする。それで毒の感じが無ければ皆が食べるんだ」
ジェイドの真剣な表情でセレストは何も言えなくなる。
「はい…すみませんでした」
「ふむ。だがこの魔物達とこの瘴気はレドア王から聞いていなかった。嫌な予感がするな」
「嫌な予感?」
「もしかすると…ジル!」
ジェイドの呼びかけでジルツァークが洞窟の入り口に現れる。
「光が差さない所は苦手だから行きたくないんだよね」
「そうだったな。そこから答えてくれ。敵が待ち構えているな?」
ジェイドがジルツァークに敵の有無を確認する。
「…うん」
「その顔は大物だな」
「うん」
ジルツァークは聖剣の一件からモビトゥーイに干渉値を与えたくないといってなるべく出現をしないようにしている。
「そうなるといつから居るかにもよるな。ポイズンウォール前ならジルの干渉値は変わらないが最近配置したのならジルに有利になっているはずだ…。ジル、干渉値は?」
「え…あ!あるよ!すごい量だよ!」
ジルツァークは自分が世界に干渉できる値を確認すると目を丸くして驚く。
「よし、それで十分だ。ジルは隠れていてくれ。今の話で十分だ。セレスト、ミリオン!やるぞ!」
ジェイドが一気に復讐者の顔になって笑う。
「やる?」
「どう言うこと?」
「恐らくジルの雰囲気で言えば来ているのは五将軍の1匹だ。
レドア王が隠しに来た時にこれだけの瘴気と毒性魔物が居ればレドア王も別の策を講じる筈だ。
だがそれをしなかったと言うのはこの洞窟が瘴気まみれで毒性魔物が住み着いたのも最近の事なのだろう。
もし毒性の魔物が多く住めばスワンプワームも毒性になるか付近の生態系が変わって住めなくなる。
だがスワンプワームは居たし毒性も持っていなかった。
そこから考えつくのはモビトゥーイが聖剣に続き聖鎧も破壊する為に五将軍を送り込んできたと言うことだ。
ジルの干渉値がかなりあると言っていた所から察することも可能だな」
ジェイドは一気に考えを伝えると「うはははは!」と喜ぶ。
「それはわかったけどやるって何をするの?」
「簡単だ。この中は瘴気まみれで毒の魔物も多い。罠があるのも容易に想像がつく。
外に戻ったら徹底的にやるぞ!
ミリオン!可能な限り魔法を放つ!
セレスト!恐らく奴らは慌ててミリオンを殺しにかかってくるから全力で守れ!まあやらせはしないがな!!」
「ジェイドは?」
「ふっふっふっ…じっくりと戦ってやるさ」
そう言って笑うジェイドの顔は勇者の顔ではなかった。




