第53話 聖鎧の在処。
情報交換としてミリオンには書庫からレドア・ワイトの書き記した手記を持って来てもらう。
それをざっと読んだジェイドがため息をひとつつく。
「ジェイド?」
「古のワイト達に何があったんだ?
グリアのワイトは事細かに必殺剣や魔法について書いていたがレドアのワイトは記録が甘い。
グリアの手記に書いてあった「バーン・リフレクション」がない」
「バーン・リフレクション?」
「広範囲の無差別攻撃魔法だと記されていた。
超高温の光を無数に放って対象を焼き穿つらしい」
「なんで魔法の事なのにレドアに記録が無いのかしら?」
「わからない…。
そもそも過去の禍根にしても手記を隠したままのブルアにしてもわからない事づくめだ」
ジェイドが困った表情でつぶやく。
「バーン・リフレクションはどうするの?」
「どうもしない。この先で必要になった時にはジルから教わってミリオンに放ってもらう必要が出てくるが、今わざわざモビトゥーイに干渉値を払ってまでジルに頼んで覚えるような物でもあるまい」
「そうね。後は何かあった?」
「いや、後は宝物庫から聖鎧を受け取って明日には上層界を目指したいな」
そう言って話がまとまった訳だが…。
「はぁ?ここに聖鎧がない?お父様?何を言っているのです?」
ミリオンが物凄い表情でレドア王を見る。
「だってさ…万一亜人に聖鎧が狙われたら困ると思って1人でコッソリと隠したんだよね」
もう、レドア王の話し方によそよそしさや重厚感なんてものは無い。
「どこに隠したんですか?」
「沼地の洞窟、その最深部にコソッとね」
ミリオンか頭を押さえてフラフラとする。慌ててセレストが支えようとするとレドア王が睨みつけてくる。
ミリオンはなんとか持ち直すとレドア王に更に聞く。
「いつですか?」
「4年前、グリアの話をジルツァーク様から頂いてすぐに隠したよ」
「お父様?沼地の洞窟ってあの沼地ですか?スワンプワームの群生地の…」
「そう。生半可な亜人如きには遅れを取らないスワンプワームに守って貰おうと思ってね!」
ニコっと笑ったレドア王の顔を見てミリオンの空気が変わる。
「バカですかあなたは!」
「み…ミリたん?」
突然怒鳴るミリオンがとても怖い。
「スワンプワームは春先の脱皮時期なら魔法も剣も効くけど今は秋なの!冬に備えて1番外皮の硬い時期じゃない!」
「ミリオン、説明してくれないか?」
「スワンプワームはレドアの西に位置する沼地に住む魔物なの。
普段は温厚な魔物で縄張りにさえ入らなければ襲ってくることもない。
でも一度縄張りに入れば襲いかかってくるし成虫になれば人間なんて丸呑みされるわ。
そして一番の問題は硬い外皮。
年に一度、春の脱皮時期なら剣や魔法が通用するけどそれ以外はダメなの。
それに秋から冬にかけてが寒さに備えるからか外皮が1番硬くなって手の打ちようがなくなる…」
「それじゃあ聖鎧を取るためには春まで待たなきゃダメなのか?」
「そう…セレストの言う通り…。
それにスワンプワームは繁殖力の高い魔物、下手に攻撃をしても倒せないと数だけ増えるの。
逆に言えば1匹でも残せれば1ヶ月もすれば数は増えるから全滅させなければ絶滅の危機もないわ」
その説明を聞くと確かに面倒くさい魔物だと言う事がわかる。
「よし、明日行こう」
「ジェイド?」
「ミリオンの説明を聞いていて倒し方は思いついた。
安心してくれ。
セレストの剣技でもミリオンの魔法でもない俺ならではの方法で倒すよ」
そう言ったジェイドがミリオンに用意して欲しいものを伝える。
「ジェイド!?それってまさか…」
「ああ、誰も試さない方法だろ?」
ジェイドが嬉しそうに笑う。その表情はイタズラを思いついた子供の表情にも見える。
「そんな…」
「だが時間がない。倒せる可能性も低い。そうなればこれしかないだろ?」
そう言ってジェイドがニヤリと笑う。




