第52話 真面目で思い込みの激しい残念な人。
「大丈夫だよ。私が見てきた限りセレストとミリオンには何もないよ」
みかねたジルツァークが笑いながら説明をする。
「ジルツァーク様!それはそれで腹が立ちます!
貴様!ミリたんの何が気に喰わんのだ!言え!私の前で言ってみせろ!」
「ええぇぇぇ…彼女に不満などは…」
「ならばやはりミリたん狙いか!」
「ええぇぇぇ」
…正直、どっちを選んでも怒られるのなら面倒なだけだ。
この話題はさっさと終わらせたい。
そう思ったジェイドが前に出るとレドア王に耳打ちをする。
「大丈夫です。ご安心ください」
そう言って王の肩を抱くとミリオンとセレストに背を向けて何かを伝える。
「…はブルアの王女からも…と評されて…」
「本当か?」
「はい。その癖……は自身の…を…」
「なんと?誠か?」
「はい………にグローバルスタンダード等と………」
「何?…の…は…どのくらい…」
「私の口から…、はい…。ただ……では……、ミリオンも……哀れ……む事でしょう」
「そうか。よく話してくれた。ありがとうジェイド!」
そう言ってレドア王がセレストの前に行き肩に手を置くとにこりと笑って「ミリたんの仲間としてこれからも支えて頑張ってくれ!どうやら私の勘違いによる誤解だったようだ。済まなかったね!」と言う。
大体何を話したのかは想像がついていたセレストは苦虫を噛み潰したような顔で「誤解が解けて何よりです」とだけ言う。
「よし!親睦を深める為に風呂に入るか?」
レドア王の顔に悪意を感じたミリオンが「情報の整理と交換が先です。それにここを自分の家と思うように言うのならジェイドに部屋を用意してください」と言って止める。
その後、ジェイドの部屋はミリオンの部屋とは正反対の場所になった。
一応は情欲が無いと宣言をしたジェイドの事も警戒しているらしい。
「お前の親父さん…とんでもない親バカだな」
「…恥ずかしいから言わないで」
「僕は粗末じゃない…。周りが異常者なんだ」
「セレスト?」
「そっとしてやってくれ。
男には受け入れ難い現実もあるんだ」
そう言って後ろを歩くセレストを無視してジェイドはあてがわれた部屋に行く。
部屋はとても大きくてジェイドがグリアで使っていた部屋の倍はあった。
「デカいな」
「お父様は思い込みが激しい人だから…。
4年前にジルツァーク様からジェイドの事を聞いた時からきっとジェイドにこの部屋を渡そうと思っていたのよ。「国や家族を失ったグリアの王子の為に私がやれる事はなんでもやらねば!」って張り切って居たもの」
ミリオンが恥ずかしそうに思い出した事をジェイドに告げる。
「そうか…、ありがたいやら申し訳ないやらだな…」
ジェイドが照れ臭そうにしながら部屋を見回す。
「足りない物があったら遠慮なく言ってね」
「すまない。世話になる。
早速だが形見をしまえる宝箱のような物と額縁を頼めないか?」
「ええ、用意するわね」
ミリオンが了承したところでセレストが口を開く。
「ジェイド、これでもかい?」
「何?」
そう言ってセレストが指差したところを見る。
そこには何枚もの色紙が用意されて居て1枚ごとにカラフルに色とりどりのペンで「ジェイド君!君は1人じゃない!私達は君のファミリーだ!」「悲しい時には私達を思い出して!」「遠慮なく泣いていいんだ!」「心を開いて!」と書かれて居た。
「この字…」
「お父様の字だわ…」
「思い込みの激しさは天下一品だね」
色紙を見た3人が思い思いの感想を口にする。
「ミリオン、頼めるか?」
「え?」
「額装して部屋に飾ってくれ」
「ええぇぇぇ?」
「このポエムをかい?」
ジェイドは感涙して頷く。
どうやらジェイドにはこれくらいの方が丁度良い感じだ。
「ありがとうと言いに行っても良いのだろうか?」
「…お父様は喜ぶけど…」
ミリオンはその後が面倒よ?と言いたげにジェイドを見る。
「言いに行く必要無いと思うよ」
セレストが部屋の扉を指差すと閉めたはずの扉は少しだけ開いていて赤い髪の毛がチラチラと見える。
「お父様…」
「レドア王!?」
呆れるミリオンと驚くジェイド。
扉からは「私はそんな人では無いよ」と小さく裏声がきこえた。
これによりジェイドとセレストの中では「真面目で思い込みの激しい残念な人」と言う認識になった。




