第51話 凄く残念な人。
ジェイドの知らないセレストとミリオンの話。
ジルツァークの導きで防人の街付近で合流した2人の勇者は夜明けの突入をする為に近くで野宿をした。
「若い男女が2人きりで野宿……ブルアめ…」
「は?」
「お父様?」
突然ボソリと聞こえてきた声色が怖いものでセレストとミリオンがレドア王の顔を見てしまう。
「あ?どうした?」
「今何か言いませんでしたか?」
「言ってないぞ。続けてくれ」
そしてジェイドを助けてから今日までの話になる。
夜になると傷だらけの姿になってしまう事。
それを気にしていたが火事から救出したリアンのお陰で少しだけ救われた事。
聖女カナリーとの出会いと別れ。
カナリーの力で傷が取り除かれた事。
グリアでは五将軍のスゥを倒し、家族をキチンと葬れた事。
そして山道で老婆達と再会を果たした事。
それを聞いていたレドア王はワナワナと震えてしまう。
「そんな目に遭っていたのか!
ジェイドよ。私達を家族だと思いその傷付いた心を癒すのだ!」
レドア王が号泣をしてジェイドの肩に手を置く。
「え?や…俺…いや…私はそんな…」
ジェイドは突然のことに驚いてしまう。
「ご安心くださいレドア王、ジェイドは…彼はこれでも随分と打ち解けてくれました」
セレストがレドア王にそう言うのだがセレストを見るレドア王の目が怖い。
何というか見ると言うより睨んでいる。
「あぁ?」
「え?…あの…え?
それに最初は復讐の事ばかりで僕達すら手駒にしか見えていない感じでしたが今は違うんですよ!」
セレストは睨まれた理由がわからずに慌てて弁解をする。
次々に機嫌をとりなそうとして余計な事まで行ってしまう。
「僕達なんて戸惑っていたらジェイドから「奴隷の首輪」を付けられて!」
「何?」
レドア王の顔つきが一層険しくなる。
「ミリオンなんて「支配の玉」で服を脱ぐように…」
「セレストやめて!」
遂にはミリオンの忘れたい過去まで話に出てしまう。
そこでジェイドを睨むレドア王だったがジェイドは口を開く。
「彼の言う通り、亜人共に勝つ為にミリオンとセレストの力が必要でしたので一時的に使わせてもらいました」
ジェイドは威風堂々と臆する事なくレドア王に伝える。
「むぅ…。しかし若い娘に肌を晒せと言うのは…」
ジェイドの臆さない態度に何も言えなくなったレドア王がせめて苦言を呈そうとする。
「無論です。なのですぐに止めました。
アレはあくまで「奴隷の首輪」と「支配の玉」のデモンストレーションでした。
それにセレストの「奴隷の首輪」は外してしまっていたのでどうしてもミリオンに使うしかありませんでした。
ただ…ご安心ください。
今の私には情欲と言うものがよくわかりません。あるのは亜人達への復讐です。
余程嫌がるミリオンに見惚れていたのはセレストでした」
ジェイドが説得ついでに余計な事を言ってしまう。
「何!?」
突然目つきが鋭くなるとセレストを睨む。
「お父様?」
その剣幕にミリオンが慌てる。
「またかブルア野郎!
お前、ウチの可愛いミリたんに何色目使ってんだボケぇぇ!」
突然口の悪くなったレドア王がセレストをブルア野郎と呼び、ミリオンをミリたんと呼び始める。
「え?」
「古の記録でもグリアを籠絡なんてくだらない真似をしやがって!」
「いや、あれはレドアの記録だとグリアがブルアをとなっているとミリオンが…」
「知るか!当時の記録だと「仲のいいグリアの王がそんな事をするはずがない。
きっとブルアが何か悪さをしたはずだ」と書いてあったわ!」
そう吐き捨てるレドア王。
その顔には怒りすら宿っている。
「ええぇぇぇ…」
「さっきから見てればイケメンオーラをバシバシ出してウチのミリたんに色目を使うやら彼氏みたいな顔しやがってよぉ」
…どうやらレドア王はセレストをミリオンの彼氏候補として見てしまっていたようだ。
「お父様!セレストと私は何もありません!」
ミリオンが慌ててレドア王の手を掴んで誤解だと告げる。
この瞬間にセレストとジェイドは「あ、凄く残念な人だ」と察した。




