第47話 ジェイドとばあや。
宿屋に戻って部屋に入ると部屋ではジェイドがミリオンにお茶の淹れ方を教わって四苦八苦していた。
「色は出ている」
「味がまだよ」
「もういいか?」
「まだよ」
「さっきはやりすぎだと言ったのに何故だ?」
「さっきのお茶と茶葉が違うでしょ?」
和気藹々と話す2人を見るとセレストが面白くなさそうな顔をする。
「コイツらは仲間の僕を追いかけもせずお茶会かよ」と思ってしまうくらいセレストは面白くなかった。
「マッチョ、客だ。ガリベン、ひとまず休憩だ」
そう言われたジェイドとミリオンが「マッチョ?」「ガリベン?」と言いながら振り返る。セレストの後ろには寒村で会った老婆と知らない中年男性が居た。
「ばあや!?」
「坊ちゃん!」
ジェイドが老婆に駆け寄って心配そうに手を握る。
その顔は復讐者の顔ではない。
「何故ここに?」
「坊ちゃんこそご無事で良かった。グリア城が海に沈んだと聞いて心配しておりました!」
老婆は顔をしわくちゃにしながらジェイドに会えたことを喜ぶ。
「俺は良いんだ。それよりばあやだ、何故?」
「坊ちゃん、昔のようにばあやと呼んでくださるのですか?」
老婆が嬉しそうにジェイドに聞く。
「あ…?城の中を歩いていて思い出したんだよ。昔、エルムに薔薇の花で髪飾りを作ってくれたのはばあやだよな?」
「はい。懐かしゅう御座います。
エルムお嬢様はまだ小さくて刺のあるバラに触るのは危ないと坊ちゃんが止めた時に泣かれてしまって…」
2人が懐かしむように昔の話を始める。
「そうだ。困惑する俺にばあやが薔薇を一輪摘んでエルムの髪に付けてくれた」
ジェイドがエルムの名前を出して目を潤ませると老婆も一緒になって泣く。
「とりあえず入ってくれ!何があったか教えてくれ!」
そう言うと有無を言わせずに老婆と男性を部屋に入れる。
その顔も声も勢いも普段のジェイドと違っていてセレストとミリオンは嬉しくなって顔を見合わせて微笑む。
セレストの憤りはこの勢いで何処かに行ってしまっていた。
老婆の話ではジェイドが渡した銀貨がトラブルの引き金になってしまった。
「後腐れないように皆で配分をしよう」と言う話になったと言うことだ。
だが宿屋はあれだけ稼いだ金の配分はしないと言い出して村自体の空気が悪くなり険悪な空気の中、老婆達が身の危険を感じて村を捨ててレドアを目指したと言う。老婆と怪我人の旅路なのでどうしても日数がかかってしまい、遂にはゴブリンに襲われたと言う。
「ゴブリン!?」
「ええ、それで息子のポゥも肩を負傷しました。ですがこちらのお大尽様に助けていただいて…」
老婆がセレストを見て「本当に助かりました」と再度お礼を伝えるとジェイドが立ち上がってセレストの手を握る。
そして「セレスト!本当に助かった!ありがとう!お前でないとばあやは助けられなかった!」と頭を下げる。
その事にセレストが目を丸くして「何?僕なんかそんな」と言う。
「何を言うんだ?俺は多対一の攻撃手段を持たない。
ミリオンの攻撃も素早く小さなゴブリン、それも森の中で使える有効打は限られてしまう。
お前だったから上手く助けられたんだ。ありがとう!」
ジェイドがやさぐれるセレストを不思議そうに見ながら話しかける。
「ほら、とりあえず座って貰ってお茶ならジェイドが練習で淹れたのがあるから飲んでもらいましょう?」
そう言って老婆達にもお茶を渡すのだが…
「ジェイド…お湯だぞこれは?」
「私のは…苦いです」
「坊ちゃん…濃すぎかと…」
3人は顔をしかめて一言ずつ感想を述べる。
「何!?」
「ほら…ジェイド貴方は何飲んでも「美味い」って言うけど…皆さんの舌は正直ですからね」
ミリオンがドヤ顔で笑う。




