第44話 葬送。
中庭は綺麗になって居て形のわかる亡骸が並べられて居た。
「もう来たのか?」
「ああ。時間が惜しいからな」
「ご両親の亡骸は?」
「見つけた。エルムとカナリーと同じ部屋で眠ってもらったよ」
そう言って自分の部屋があった方角を見る。
その眼が名残惜しそうに見えてしまったのでミリオンが意見をする。
「もう一晩くらい居ても良いんじゃ無い?色々話したい事とかあるでしょ?」
「いや、大丈夫だ。ミリオン、一つ願いを聞き入れてくれないか?」
「お願い?」
「ああ、戦いが終わるまで、レドアでコレを預かって居てもらいたいんだ」
そう言ってジェイドは家族4人が描かれた絵と先程形見として貰った品々を見せる。
「これ…」
「ああ、この後は聖鎧を受け取りにレドアに行けば次は穴を通って上層界だ。
そしてその後は亜人界。
きっと亜人界では死闘になるから大切な形見や家族の絵は持っていけない。
きっとセレストならブルアにと言ってくれるだろうがこの旅ではもうブルアには寄らないから…。頼めるか?」
ジェイドの目は先ほどまでスゥを痛めつけていた復讐者の目ではなく悲しげな眼をしている。
「当然よ。責任を持って保管します」
「ありがとう。後はもう一つお願いがあるんだ。
亜人共が付いてくるのが不満だが皆を送りたいんだ。
もう誰にも…何も触らせない。
この土地に誰も入れたくないんだ」
「わかっていたわ。…でもいいの?貴方の故郷なのよ?」
ミリオンが泣きそうな顔でジェイドを見る。
自身のレドアが同じだった時を考えてしまうのだろう。
「いいんだ。俺はただの復讐者。
最後のグリア人が何を言っても、この土地は亜人が居なくなれば無法者やこの前みたいな村人、もしかしたらレドアやブルアから新天地を夢見てくる連中がいるかも知れない。
そいつらが城下町や城、その跡地…グリアの上に住むのは嫌なんだ」
ミリオンは深く頷くと「わかったわ」と言う。
「使って欲しい魔法とタイミングは俺が指示するから頼む。
後はセレスト、ワイトの記録を探したがモビトゥーイの指示なのか書庫が荒らされて居て残って居なかった…済まない」
「気にしないでくれ。僕は今まで通りジェイドの指示に従うさ」
セレストは折れた聖剣を大切に抱えながら言う。
そして3人は城の裏手からレドアを目指す。
4年前のあの日、エルムと抜け出す予定だった裏手…。
「この裏手から抜け出して山を進むとレドアとの国境に出る。
そこまでは半日と言った所で、その後は大体4日でレドアに着く」
ジェイドが感慨深く裏手の先に見える道を見てそう言った。
そして山道を黙々と進む。途中山に住むサルの魔物に襲われたがジェイドが圧倒的な力で破壊をすると近寄ってこなくなった。
そしてかなり登り、夕日で眼下のグリアが綺麗に赤く染まったところまで来た。
「ジル」
「ジェイド…」
ジェイドがジルツァークを呼び出す。
ジルツァークは聖剣を折られたのは自分が無駄に近くに居て干渉値を与えてしまったからだと責任を感じて姿を消していた。
「見ていてくれないか?済まないな…勇者が国を捨てる事になってな…」
「ううん、そんな事ないよ!」
ジルツァークが首を左右に振ってジェイドは悪くないと必死になって言う。
「ありがとう」
ジェイドはそう言ってからミリオンを見る。
目が合ったミリオンは静かに頷く。
「ミリオン、済まない。宝珠の力を全開放してアースクラックを使ってくれ。
城を中央に置くのではなく、裏手から山側に亀裂を走らせるのでもなく、海側に向けて亀裂が入るようにしてくれ、頼む。
出来上がった大地の裂け目でグリアを地の底に落とすイメージだ。
続けてグラビティプレスでグリアの城と街を壊さないように地の底に押し込んで欲しい。
それで思い通りになるはずなんだ。
ならなかったら追加を頼むよ」
そのジェイドの横顔がとても物悲しくてミリオンはまだ口にもしていない大魔法の事を言われたよりも、無理難題や2連続を頼まれたことよりも何が何でも成功させなければと思っていた。
「宝珠よ!私に力を貸して!
アースクラック!」
ミリオンのその声で地響きが起こるとグリア城の裏側の海岸線から街の入り口辺りまで無数の亀裂が走って地響きで城が飲み込まれていく。
そしてその直後に「グラビティプレス!」と唱えると上から見えない力で城と城下町が押しつぶされてそのまま沈んでいき城の頭まで沈むほどのクレーターが完成した。
流石のミリオンでも大魔法の連発による疲労は相当なもので苦しそうに肩で息をしていた。
「無理をさせて済まなかった。少し待って想像通りの結果になるか見たい。無理な時はもう一つ頼む」
そう言ったジェイドが暫く沈んだ城を見るとみるみる城が水没していく。
「街と城が…」
「沈む…」
「ああ、海岸にそう遠くないグリアの城を海より低くすることで水を呼び込んで沈めたんだ。
最初はメルトボルケーノで全てを焼き溶かして貰おうかと思ったのだが、グリアの皆にこれ以上熱い思いも何もして欲しくなくて、せめて海に返して誰にも触れられない穏やかな海中で眠って貰いたかったんだ」
ジェイドはそう言って沈むグリア城を最後まで眺める。
忘れないために…。
そして自分があの場に居ない事を悔やんで…。
「泣けよ」
「何?」
セレストがジェイドの肩に手を置くと泣けと言う。
「泣いて見送ってやれ」
「もう泣いた。だから後は進む。ジル、世界を傷つけて済まなかった」
ジェイドがセレストに微笑むと今度はジルツァークを見て地形を変えてしまった事を謝る。
「いいよ。これも歴史だよ。このまま亜人とモビトゥーイを倒して皆で平和になった世の中で歴史を刻もうね」
ジルツァークはそう言って夜の訪れと共に去って行った。




