第42話 生贄。
街の入り口に張ったアイストラップは夜中になると寝込みを襲おうとした亜人によって発動をしてその悲鳴でセレストが起きて一体一体真空剣で始末していた。
「もう2日。ジルツァーク様の話だとそろそろだが」
セレストがそう言って夜明けの中、城の方を向くとタイミングよくジェイドが槍まみれのスゥを連れて歩いてきた。
「ジェイド?」
「待たせた」
「ミリオン!ジェイドだ!」
セレストの声で起きたミリオンがジェイドと引きずられるスゥを見て「どういう状況?」と聞く。
「おい…自分の口で言え」
ジェイドがスゥを蹴ると「殺してくれ」と言って崩れ落ちた。
「セレスト、聖剣でコイツを斬れ。今のコイツなら聖剣の力で殺せる」
「何?」
不死を殺せると聞いて驚くセレストだったがジェイドが冗談を言う人間ではない事を知っているので「わかった…」と言って聖剣を構える。
「セレスト、断命は使えるか?」
「…ジェイド、お前は何処まで知っているんだ?」
セレストは隠し玉にしていた必殺剣を言われて驚く。
「グリアには記録が残っていただけだ」
そう言って城の方を向くジェイドを見てそれ以外は言わずに聖剣を腰に構えると居合斬りの格好で「断命」と言いながら崩れ落ちたスゥの身体を斬りつける。
「セレスト駄目!」
突然ジルツァークがそう言って現れたがセレストの剣はスゥの身体を捉えていて胸から肩にかけて真っ二つに剣が走っていた。剣がスゥを斬り裂いたその瞬間。
「アハハハハハハ!!」
聞き覚えの無い声が聞こえる。
「黙って待っている間に貯まった干渉値とスゥの命を生贄に聖剣を破壊する!!」
その声はそう言った時、聖剣に向かって黒い光が降り注ぎ「バキィィイィン」と言う音を立てて聖剣が真ん中で折れてしまった。
「モビトゥーイ!!」
「アハハハ、ジルツァーク、久しぶりね。干渉値が貯まっていたから太陽の出ている時間に人間界に顕現できたわ。それに干渉値とスゥの命を捧げた事で新たに出来た干渉値を使って痛んだ聖剣をへし折ってやった!勇者はまだしもその剣は流石に目障りだものね。アハハハハ!!」
そう言って声が消える。
「…聖剣が…折られた…。
セレストが折れた聖剣を見て唖然としている。
「ジル?」
「…聖剣は痛んでいたの。亜人が持った事とエルムの血で4年間徐々に痛んでいたの」
ジルツァークがセレストの手元を見ながら話す。
「…ずっとモビトゥーイが何をするのか考えたの。最初はカナリーを助けた干渉値で他の五将軍をグリアに連れてくるか穴に作ったポイズン・ウォールを除去すると思ったんだけど、ポイズン・ウォールはそのままだしスゥが死ぬと言っても誰も現れなかったから嫌な予感がしたの…」
「それで貯まった干渉値とスゥの命で聖剣を…」
「うん。今の痛んだ聖剣ならモビトゥーイにも折れるから…」
そう言ってジルツァークが泣き始める。
女神の涙はセレストとミリオンを不安にさせる。
だがジェイドは違っていた。
「ジル、聖剣は修理できるな?」
「え?」
その言葉にセレストが驚いてジェイドを見る。
その驚いたセレストを見た時の方がジェイドは驚いていた。
「…あ…ブルアに記録は残っていないのか…。聖剣と聖鎧は上層界のドワーフの作品。宝珠は上層界のエルフの宝物だ。勇者ワイトが亜人界を目指す時に授かったんだ」
「じゃあ…」
セレストの顔が明るくなる。
「ああ、聖剣は取り戻せる。それにどの道亜人界には向かうんだ。途中の寄り道で済む」
「良かった…。あの威力が得られないのは困るもの」
ミリオンもそう言ってからホッとする。
「セレスト、お前はもう聖剣に心奪われていただろ?」
「え?…ああ」
「物凄い顔をしていたぞ」
「皆、ごめんね」
そう言ってジルツァークが謝る。
「いや、今折れてくれてある意味ラッキーだ。亜人界で折れていたら死んでいたかもしれないからな」
「ジェイド、ありがとう」
そう言ってジルツァークが笑った。




