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第4話 復讐の始まり。

「よし、ワラワラと集まってきやがった」

ジェイドは街の入り口を見ながら棍棒を片手に嬉しそうに笑う。


「なんで…何で笑えるの?」

「楽しいからに決まっているだろ?」

ミリオンが不思議そうに聞いて当然と言う顔でジェイドが答える。


「でも!亜人は倒すべき敵でも子供や弱い者、人間は!」

ミリオンは「殺さないでいいのではないか?」そう聞きたそうな顔をしている。


「…なあ、この建物が何でコの字型なのかわかるか?」

「え?」


「裏側には中庭…広場があるんだよ。

そこで日々繰り返される拷問と残酷な殺戮ショー。

奴らは捕まえた人間を殺して遊ぶ。

落ちこぼれの亜人もここで処分する。

亜人は不足が出るとモビトゥーイが神の力で生み出して補充するんだ」


「そんな…」

ミリオンは初めて聞いた事実に驚きを隠せない。


「そのショーをな…心待ちにして楽しむのがこの街の奴らだ。

俺はその目に日々晒されていたんだ」


ジェイドが忌々しそうに言う。


「それは…」

「亜人に殺されないために話を合わせているだけ…とでも言いたそうだな」


「だがこの街の人間は亜人共に加担している。

窓の外を見てみろ。戦闘奴隷の人間以外にもわらわらと家屋から人間が武器や武器になりそうな道具を持って現れたぞ」

ミリオンは言葉の通り窓の外を見て愕然とした。


「な?まあ、いい。ここで待機をさせようと思ったのだが獄長が目を覚ますと厄介だ。ミリオン、お前はこの建物で南東側の出入り口付近に待機しておけ。そして手はず通り俺ごとこの街を吹き飛ばすんだ。いいな?お前にしか出来ない仕事だ。頼むぞ」

「……はい。わかったわ」

ミリオンの苦しそうな顔。

ジェイドはその意味を理解する。


「ミリオン、一つだけ言っておく」

「何?」


「お前がアトミック・ショックウェイブを使ったのは俺の命令だからだ。お前の意思は存在しない。痛みで支配されたお前が俺の命令で使うんだ。気にするな。言われた通りに実行しろ」

「………」

ミリオンは驚いていた。

この男はわからない。

無慈悲で残虐で冷酷。

亜人への憎しみが原動力のようで、そして同じ勇者に「奴隷の首輪」をつけて命令までする。


それなのに殺人の罪と重さは全て自分にあると言ってのける。


「返事はどうした?」

「わかったわ」


「よし、それでは行動開始だ。先に行け。俺は準備が済んだらこの窓から飛び降りて奴らを皆殺しにする」


ミリオンは南西の出口を目指して部屋を後にした。


「さて、俺は仕上げをするか…」


ジェイドがそう言うと壁に飾ってあった獄長と妻子の絵を取り外すと部屋の隅に立てかける。

確かにこの絵の家族は耳が尖っていなくて首周りに模様がなければ家族の暖かな絵だが尖った耳と模様がある亜人で、亜人が家族を語っていい道理はない。温もりを享受していい訳が無い。

ジェイドはそう思っていた。


「俺から温もりを奪ったお前達にあるのは罪と罰。そしてそれを告げるのは俺だ」


ジェイドはそう言うと持っていた鋼鉄の棍棒で獄長の手足をへし折る。

獄長は突然の痛みに目を覚ます。


「よう、これは貰っていくぜ?」

そう言って獄長の血が付いたこん棒を見せつける。


「ぐっ…良い気になるな人間め!不死身のお前には地獄が待っている!もうすぐ仲間達が到着をする。そうすればお前は死ねない中延々と痛めつけられるのだ!」


「へぇ…。楽しみだな。去年まで俺を戦闘奴隷にして亜人の始末をさせていたのはお前達だろ?もう「奴隷の首輪」は外れている。激痛を用いた援護も出来ないんだ、全部俺が殺してやるよ」

ジェイドがそう言うとニヤッと笑いながら獄長を見る。


「お前には散々世話になったな。特別な仕返しをしてやるよ。

その絵の女と娘の顔を覚えたからお前を生かしたままそいつらを見つけて殺してやるよ」


「貴様!!」

「何憤ってんだよ。お前達が俺にした仕打ちと何が違う?」

そう言われて言葉に詰まる獄長。


「違わないだろ?俺は最速で亜人の国を目指す。せいぜい手足が折れたままで家族の所に帰るんだな。あはははは!はーっはっはっは!!!」


そう言ってジェイドは獄長の机にあったインクを絵にかけてから部屋を後にしようとする。


「ふざけるな…ふざけるなよ人間!!娘はまだ4歳!4年しか生きていないのにお前に殺されるだと!!妻は今も私の帰りを待っているんだ!」

そのジェイドの背中に向かって獄長が言葉をぶつける。


「へぇ…4年ね。俺がお前達に捕まってから4年だ。同じ時間だな。4年でお前の娘が成長をして俺は何もかもを失った。やる気が出たぜ…ありがとよ」


ジェイドがそう言うと窓から飛び降りて建物に集まってきた亜人や人間を棍棒で殴りつけて行く。

「お前ら全部皆殺しだ。かかってこい!!」


ジェイドは笑いながら目に映る全てを殴っていく。

殴って殴って殴り続ける。


後ろからの不意打ち、横からの攻撃…、正面からの斬撃。その全てを無視してひたすら棍棒を振るい続ける。

槍が身体を貫こうが剣が深々と突き刺さろうがそれは再生する肉に皮膚に押し戻され弾かれて抜けていき次の瞬間に怪我は治る。

ジェイドはそんな些末な事を気に留める必要は無い。

死ねないのだから痛みはあるが有効活用をする。



「惜しかったな!次は殺せるかもしれないな!殺してみろ!俺を殺してみろ!!」

そう言いながら次々と敵を倒していく。



獄長は部屋を這いずって妻子と並んで描かれた絵に向かって行く。

「助けるからな。待っているんだ」

そう言いながら絵に到達をする。

必死に折れた腕で絵にかかったインクを拭うと黒くなってしまったが家族の顔は何とか判別が出来る。


「あの人間め。かならず復讐をしてやる。私を生かした事を後悔させてやる。あいつが国に到達する前に国に戻って必ず守って見せ…」


獄長がそう言った時、町全体を覆う一瞬の閃光。

夏日以上に眩しい光。熱線。衝撃波が発生して建物は吹き飛ばされ、次の瞬間にはあまりの熱量で周辺全てが蒸発をする。


獄長もジェイドに斬りかかっていた亜人も、棍棒で折られた肩をさする人間も全て一瞬で蒸発をした。


ミリオンが勇者にしか使えない大魔法アトミック・ショックウェイブを発動させたのだ。

周りの敵が蒸発していく中、ジェイドだけは蒸発せずに光の中を飛ばされていた。


「あははははははは、全部吹き飛んだ!蒸発だ!!これなら亜人達に復讐が出来る!父さん!母さん!エルム!グリアの民!待っていてくれ!俺は復讐を成し遂げる!!」

衝撃波でその言葉はかき消されていたがジェイドは復讐の始まりに歓喜していた。

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