第37話 不死のスゥ。
「セレスト、これが聖剣だ。こんな形でお前に渡すのは心苦しいが受け取ってくれ」
ジェイドは身を引いてセレストに聖剣を取るように言う。
「バカ野郎。エルムさんが痛がっているだろ?お前が抜き取ってやって優しい労いの言葉の一つもかけてやるんだ!」
セレストがジェイドを指さして怒っている。
「だが抜身の聖剣は…勇者以外が触ると切れ味が鈍く…」
「それこそバカにするな!僕の剣術は剣の切れ味もフォロー可能だ!なまくらでも亜人を意のままに切り裂ける!」
セレストが涙を浮かべてジェイドに怒鳴る。
「済まない…お前は本当にいい奴だな」
ジェイドはそう言うとエルムの前に立つ。
「待たせたなエルム。痛かったよな、怖かったよな。頼りにならない兄貴ですまなかったな」
そう言って聖剣を引き抜いた。
抜身の聖剣はとても重かったがジェイドは何とか抜き取るとセレストに渡す。
「重いぞ。気をつけてくれ」そう言われて身構えたセレストだったが「軽いじゃないか」と軽々と持つ。
「もう聖剣がセレストを受け入れたんだな。抜き身の聖剣は適合者以外には重く持てなくなる」
そう言ってジェイドがエルムの亡骸を横たわらせる。
膝は固まってしまっていて伸ばそうにも下手に力を入れると折れてしまいそうで何も出来ないがそれでも寝かしつける。
「ずっと座りっぱなしで疲れたよな。待っていてくれ、城の中に入って父さん達の遺体を連れてきたら一緒に葬るからな」
ジェイドがエルムにそう言った時…。
「痛い…」と言う小さな声が聞こえてきた。
セレストとミリオンが慌てて周りを確認したが何も聞こえない。
だがまた聞こえてきた。
「痛いよお兄ちゃん…聖剣に刺された傷が痛いよ!」
そう言ってエルムの亡骸が突然話し始めると周りに討ち棄てられた兵とメイド達の亡骸も起き上がると口々に「痛い」と騒ぎ始める。
「祟り!?」
セレストが真っ青な顔で辺りを見渡す。
「そんな訳あるか!出てこい!」
ジェイドが怒鳴ると城からは動く亡骸を連れた亜人が現れる。
「亜人?」
「やはりな…」
「うきょ?なんでわかってましたって顔してんの?」
小柄でひょうきんな雰囲気の亜人がジェイドに質問をする。
「エルムは俺をお兄ちゃんとは呼ばない。それに亜人ならこんな敵もいるかも知れないと思っていた。お前は死体を操る亜人だな?」
「うきょきょ、鋭いね〜。そうさ僕は五将軍の1人、不死のスゥ」
「スゥ?それは闇の将軍では!?」
「剣の勇者は古いなぁ。あれは前の五将軍さ。僕は死体を操れるし僕自身が不死身なんだよ〜」
そう言ってスゥがケラケラと笑う。
「ふはははは!僥倖だ!1番倒したい奴が目の前に居るぞ!」
だがスゥの笑い声をかき消すほどのジェイドの高笑い。
「うきょ?バカなのか?僕は死なないのに変な奴。お前の倒したいのは剛力のサシュだろ?変なの?」
いきなりスゥが他の将軍の名前を呼ぶ。
「剛力のサシュ?そいつがエルムの仇か?」
「そうだよぉ、サシュは重くて並の兵には持てない聖剣を持ってグリアの姫に突き立てたと自慢していたからね」
スゥがこれ見よがしにジェイドを挑発している。
「そうか…そいつか…」
ジェイドはようやく見つけた手掛かりが嬉しくて仕方なかった。
「サシュはグリア制圧のご褒美で、本国で兵の教育の仕事をしているよ。会えなくて残念だったね」
「なに、どうせ全ての亜人は皆殺しにするんだ。早いか遅いかだけだろ?それに俺が一番倒したかったのは死者をどうにかできる能力を持った亜人だ。だからお前が出てきた事は僥倖でしかない」
「うきょ?馬鹿だねー。モビトゥーイ様が言っていたよ。グリアの王子に絶望を教えてやれってな」
「何?」
ジェイドがモビトゥーイの名前に反応をしてスゥを睨みつける。
「ああ、後でグリア王の死体と王妃の死体で殺し合いとかしようか?楽しい見世物だよね?あ、そう言うのが嫌ならラブシーンとかどう?うきゃきゃきゃきゃきゃ!
妹と兵士で濃密なラブシーンとかどう?妹さんは恋人とか居たのかな?いないのに殺されちゃったのかな?可哀想だよね~。人間はキスって言うのをするんだろ?それくらいしないと可哀想だからさせようよ!どの兵士がいい?選ばせてあげるよ!!」
「貴様…。徹底的に痛めつけてから殺すぞ」
ジェイドの怒りが最高潮に到達する。
「うきゃ?怒ったの?それに勝てると思っているの?僕に?うきゃきゃきゃ、これでもかな?」
そう言ってスゥが右手を上げると中庭の死体達が一斉に立ち上がってこちらを睨んでくる。
「…街の奴らも動かしたのか…」
「何?悔しいの?まあ、街はまださ。後で呼んでやるよ」
そう言うと再度右手を上にあげるスゥ。
その動作で近くに居た兵士の亡骸が襲い掛かってくる。
「すまん!」
そう言ってジェイドが一撃で亡骸を破壊した。




