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第32話 知る者との再会。

大金が手に入った事で気が大きくなった宿屋の店主と村人が愚痴を言い始める。


「グリアは攻め込まれて話にならないし、レドアの連中は何回か見に来たが亜人からの仕返し怖さに何もしないで逃げ帰った。頼りになるのはブルアのお方だ!」


この言葉にミリオンが反応をしたがジェイドが首を横に振るとミリオンは慌てて諦める。


宿屋の店主達からすれば地理上、最も近いレドアが助けを寄越してくれるべきと思っているし、そもそもはグリアが攻め落とされなければ良かったのにと思っていたのだ。


店主達がジェイド達を部屋に通す。

貸し切りなのだから1人一部屋で良いのだが「身の回りの世話をさせたいから大部屋で頼む」と言ったセレストの機転で大部屋での宿泊になる。


「夕食の用意をしてきますね」と店主が部屋を出て行くとジェイドが口を開く。


「やはり想定通りだった」

「やはり?」

ジェイドの言葉に疑問を持ったミリオンがジェイドの顔を覗く。


「ああ。亜人共が人間界の進行拠点として防人の街とグリア城を抑えて居ると思っていた。

そしてこの場合には兵站がどうしても必要になる。

グリア城までの途中にある村々が狙われるのも村を占領せずに定期的に略奪されるのもな」


「でも何でレドアが…」

「簡単だ。これで目を付けられたら次に攻め落とされるのは地形的に言ってレドアだ。

なまじ村々が占領されていれば侵略の危険から軍が動く事も考えられるが村に来て村が痩せ細っていても人間の村なら「問題なし」で報告をする」


「そんな…私何も知らない!」

ミリオンが受け入れ難いと慌てふためく。


「そんなモノだ。気にするな。

だが今晩は風呂やトイレ、寝込みなんかは気を付けろ。

体を休めるのみで熟睡を求めるな。

セレストの行動は良かったがかえって悪目立ちした」


「え?」

「金を見せただろ?この村は貧しい。夜中に金を狙った連中が…までならまだしも、ミリオンの寝姿を見られて赤毛がバレれば…」

そう言ってジェイドとセレストがミリオンの頭を見る。


「まさか…」

「吊し上げだな。亜人共に性欲はないがこっちは人間で…」

そう言ったジェイドの目がとても怖くてミリオンとセレストが唾を飲む。


「ミリオンは美人だからな」

その言葉でミリオンが赤くなる。



「なな…何を?」

「本当だろ?客観的感想だ。キチンと受け入れろよ」

ミリオンは俯いてしまった。



夕飯は豪華だった。

この寒村と呼べる村でこれほどのご馳走が出た事でジェイドはさらに疑念の目を向ける。


「まず私が毒味を行います」

「う…うむ。任せる」

ジェイドが家臣のフリをしてセレストが位の高いものとして振る舞う。


ジェイドがひと口食べてみたがおかしな感じはない。

「遅効性の毒か?」

ジェイドは毒による拷問をこれでもかと受けていたのである種毒に耐性も知識も持ち合わせて居るが今食べたモノに毒の気配はない。


その時配膳に来ていた1人の老婆が鉄兜から覗くジェイドの顔を見て息を飲む。


「坊ちゃん?」

老婆はそう言ったが慌てて口を塞ぐ。

老婆の声は周りの人達にほ聞こえなかったがジェイドには聞こえていた。


宿屋の店主は「亜人共に奪われるくらいなら食べてください!」と分厚いハムステーキを持ってきながら豪快に笑う。


「旦那様、折角の食事です。我々だけでは食べきれませんから村の子供達にも振る舞っては如何でしょうか?」

「そうだな。店主よ、ここから少し持って行くが良い」


「は?はい!ありがとうございます!子供達も喜びます!」

そう言って店主が「こちらのお大尽様が恵んでくださったぞ」と言って子供達を連れてくる。

子供達は「お兄さん!ありがとう!!」と言うと貰った先から料理にかぶりつく。


それを見ると毒が入って居る感じはしない。

その時に先ほどの老婆がジェイドの側に来てセレストに向かって口を開く。

「御大尽様、もし良ければお願いを聞いていただけませんか?」

「何?」

セレストが不思議そうに老婆を見る。


「高い所の重い荷物を取りたいのですが生憎手隙のものがおりません。

そちらのお付きの騎士様に手伝って貰いたいのです」

セレストは驚いてジェイドを見るとジェイドは頷いた。

それは引き受けるべきと言う合図だろう。


「こら、何でお客様にそんな事を頼むんだ?」

店主が老婆を叱り付けると老婆も「先日亜人に投げ飛ばされたポゥが骨折していて小麦が棚から下ろせません」と反論をする。


「小麦で何が作れる?」

セレストが話を合わせると老婆は「かまどでパンを焼けます。そのパンを買っていただけませんか?」と言う。


「ここのパンは日持ちするのか?」

「はい!」


「それならば3日分は買いたい所だな。

店主、使いの者を手伝わせるからパンを売ってくれないか?」


「へ?本当ですか?ありがとうございます!」

店主は棚からぼた餅と言わん表情で喜ぶ。


「よし、マッチョ。お婆さんの手伝いをしてくるんだ」

セレストは少しだけ気が大きくなってふざけ始める。

だがジェイドはいちいち構っていられない。


「わかりました」と言ってジェイドが老婆の後をついていく。

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