第29話 姉妹。
ジェイドは暫くして落ち着いた所でカナリーを抱いて塔を降りる。
塔の前にはフランとカド、村の男や女達が泣いて待っていた。
「カナリー…、よく頑張ったな」
カドが誇らしげに頬を触るとそう言った。
カドも泣いたのだろう。目が赤い。
足元にフランが来て「お姉ちゃんの顔を見せて」と言った。
ジェイドは「ああ」と言ってカナリーを抱きかかえたまましゃがむとフランはカナリーの顔を見て涙を流す。
しばらく顔を見た後で「お姉ちゃん。行ってくるね。バイバイ」と言ってフランは塔に登る。
塔の扉を開けた時、振り返ると「私は聖女としてやるから、頑張ってよね」と言う。
「ああ…。10年もかからない。亜人共は皆殺しにする」
ジェイドはフランを勇気づけるためにもキチンと力強く言う。
「待ってる。後はお姉ちゃんを綺麗なところで葬ってあげてよね」
「…ああ」
フランは振り返る事なく塔に登っていく。
「フランは…これから6日は塔で壁の維持の為に祈りを捧げて1日だけ休む。そんな生活になる」
カドが説明をする。
そしてカドの横に赤ん坊と子供を抱く女性がいた。女性は目を腫らしながら声を殺して泣いている。
見た感じでわかる。
「君が…」
「ええ、姉のアプリ。カナリーは幸せだったと思う?あなたはどう思う?」
涙声でジェイドに質問をする姉のアプリ。
「…わからない。でもカナリーは最後まで笑顔だった」
「そう…。あの子は私を憎んだかしら?」
それは死が確定の聖女を譲ったからだろう。
やはりアプリは負い目を感じていた。
「謝っていた。過酷な使命を代わってもらった事も感謝していた」
その言葉でアプリは声を上げて泣いた。
「過酷って…どっちも過酷なのに…。なんで最後まで…そんな…」
そう言って泣くアプリを心配そうに2人の子供が見つめている。
その晩は村の真ん中に設置された台にカナリーを寝かせると一晩中村人が花や食べ物を供えにくる。
数時間でとても素敵な花の台になる。
ミリオンとセレストも花を供える。
「同じ女性として尊敬します」
「ジェイドをありがとう」
そのジェイドは片時も離れないでカナリーの横にいた。
途中で子供が眠ったアプリがジェイドの横に来る。
「勇者様は寝ないんですか?」
「ああ、カナリーと一緒に居たい」
「そうですか。あの子、ジルツァーク様から話を聞いてあなたを勝手に心の支えにして頑張っていました」
「聞いた。俺もこれからはカナリーを支えにして亜人共を皆殺しにする」
「私ね、カナリーが不特定多数の男性を受け入れて次の聖女を授かる役目は似合わないと思って聖女を譲ったの」
「そうか」
「そうか、って何かないんですか?」
「いや、俺は自分を恥じたんだ。防人の街で4年間受け続けた拷問の日々で自分が世界で一番哀れで救いのない人間だと思っていた…。だがカナリーも君ももっと過酷な運命に立ち向かっていた。聖女も聖女を生む役目も並大抵のものではない。頭が上がらないんだ。
だがカナリーはそれでも笑顔だった…」
「もう、それは仕方ないですよ。この村は秘匿されていて旅人にはただの「防人の監視塔」とかの名前が通称なんですから」
そう言って呆れ笑いをした顔がとてもカナリーに似ていた。
「…」
「勇者様?私何か怒らせちゃいました?」
「似てた…カナリーに似ていて、同じ言葉を貰った」
「ああ、まあ似ても似つかないけど一応姉妹ですからね」
そう言って自嘲気味に笑うアプリ。
「俺は亜人共を皆殺しにする。カナリーや君には過酷な運命を背負わせてしまったが君の子供達は何も背負わないでいい世の中にする」
「ありがとう勇者様。期待して待っていますね」
「じゃあ、子供が起きないうちに帰りますね」
「ああ、お休み」
ジェイドは右手を上げてアプリに手を振った。




