表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/172

第28話 最後の力。

「嬉しい…です」

ジェイドに頑張れと言われたカナリーが微笑みながら涙を流す。


その後もカナリーは命を振り絞って話す。

ジェイドは何も悪くない。

あの責め苦を受ければどんな聖人でも心がささくれ立つ。

沢山泣いて自分を許してあげて。受け入れてあげて。癒してあげて。

妹のフランは憎まれ口を叩いたがあの子はすぐに理解の出来る賢い子だから安心して壁を任せられる。でもこの苦労は味わって欲しくないからモビトゥーイと亜人を倒して平和な世界にして欲しい。

そんな事を話しながら日は傾いていく。


「ジェイド様?」

「なんだ?」


「もし…世界が…平和なら…私…達は…友達に…なれたかしら?」

「当たり前だ!俺はもっとカナリーと話したい!グリアに招きたい!父さんや母さん、エルムに紹介をして俺のお気に入りのコスモス畑を見て貰って!それで!!

逆にカナリーが俺なんかを嫌がってしまうかも知れないが俺はカナリーの友達になりたくて仕方がない!」


もうずっとジェイドは泣き続けている。

とうの昔に尽き果てたと思った涙がこれでもかとあふれ出てくる。

ブルアで涙を流した時も内心驚いていたがその比ではない。


「嬉しい…。

なのにもう…終わりみたい…。

頬に触らせて?」

カナリーの手が震えるのがわかる。

力を入れて頬を触りたいのだ。

ジェイドは「ああ」と言ってカナリーの手を取って自分の頬に当てる。


「男の人に抱かされて…触れながら逝ける。私…聖女…なのに…ふふ…」


その時にジェイドは日が落ちるのを見た。


「っ!!?カナリー…日が落ちた…。済まない。俺は傷だらけの姿に…」

ジェイドは悔しかった。綺麗な姿でカナリーを送りたかった。

こんな傷だらけの自分に抱かされたカナリーは嫌なのではないか。

未練を残して旅立ってしまうのではないか…。


申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



「良かった…、頑張れたわ…私、頑張った!………」

「カナリー?」

カナリーが本当に嬉しそうに震える声で泣きながら喜ぶ。


「この…言葉を言いたくて…、身体に…ジルツァーク様に…祈ったの………」

「カナリー?何を…」

カナリーの嬉しそうな表情は心の底から出てきていてジェイドは何が何だかわからない。

もしかすると夢を見ているのかもしてないとすら思ったほどだ。



「ふふ…、ジェイド様…、傷なんてありませんよ」



突然、力強い声で優しくカナリーがそう言った。

一瞬、何を言っているのかジェイドには理解できなかった。


「え?何を?」

そう言いながらカナリーを抱く右手を見るが昨日まであった黒い痣も焼きゴテの痕も何も無くなっていた。


「何で?昨日まで…」

「…わた…しの…最後…の力…、抱いて……貰った……時…使った…。

ジェイド様…の傷を…取り除きたかったの…、傷…あると…ジェイド様…心が……癒されないから…………」


「カナリー!?そんな事をしてくれたのか?俺なんかの為に!?」

涙を流しながらジェイドはカナリーを見る。

カナリーが嬉しそうな顔と同時に少し困った顔をする。


「勇者様…はなんかじゃありません。

ジェイド様…傷なんてありません。後は泣いて笑って怒って悲しんで心を癒してあげてくださいね」


カナリーは一気に話すとそのまま旅立った。

ジェイドはカナリーを抱きしめながら声を上げて泣いた。


会って数時間しか一緒に居なかったがカナリーの声や顔、言葉なんかがジェイドには染み渡っていた。

戦友と呼んでくれた。

自分のせいではないのに俺が拷問を受けたことを謝罪してくれた。

そして最後の命を振り絞って心を癒せるようにと傷だらけだった身体を元に戻してくれた。


感謝しかない。

でもその感謝に報いる方法がわからない。

返したくても、返し方を聞きたくても腕の中で眠るカナリーはもう起きない。


その事でまたジェイドは声を上げて泣いて涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ