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第27話 旅立ちの抱擁。

「待たせた!」

ジェイドは塔に登るとカナリーの部屋を開ける。

カナリーは先ほど寝かしつけたベッドに横たわっていて苦しそうに息をしていた。


着いてきたジルツァークがカナリーを見て「もう旅立ちの時が近いよ。ジェイド、声をかけてあげて」と言って消えていた。

最後を2人きりで過ごせるようにしてくれたのだろう。


「カナリー!」

「じ………ジェイド様…、私、頑張りました。

キチンとジェイド様が戻られるまでお待ちしましたよ…」

涙を浮かべて苦しそうにするカナリー。

本当に頑張ってくれたのが伺える。


「ああ!わかっている!勝てたぞ!」

「はい…、見ていました」


「見て?」

「聖女の…力…です。

ジェイド様が…巧みに20体の…亜人を檻に入れたのを見ました」

カナリーの言う事は間違っていないので本当に見ていたのだろう。

だとすると聖女の力は相当なものだ。


「そうか」

「やは…り…私の考え…は間違って…居ませんでした」


そう言ったカナリーが無理矢理起き上がろうとする。


「どうした?何をする!?」

「ジェイド…様、はした…ないと思わないで…くださいね。私を…抱きしめて…ください」


「え?」

「嫌…ですか?」

カナリーは必死な顔でジェイドの顔を覗き込んでくる。


「そんな事はない!」

ジェイドはカナリーを抱こうとしたところで鎧が邪魔だと気づき「鎧を脱ぐ。少し頑張ってくれ」と言って鎧を脱ぎ捨てた。

せめて冷たい鎧ではなく生身の方が良いと思ったのだ。


「暖かい…

ジェイド様…、暖かい…です」

そう言って涙を流すカナリー。


そのカナリーは冷たかった。

その事がカナリーの旅立ちを容易に想像させる。


「カナリーが共にいると思って戦った」

「はい。ありがとう…ございます」


微笑むカナリー。

もう苦しんでいるのか微笑んでいるのかはわからなかったがジェイドには微笑んでいると思えた。


「ジェイド…様、お伝え…したい……聞いてください…」

「なんだ?」


「復讐…に……心奪われ…過ぎないで…皆の為に…」

「皆の為?」

突然言われた言葉が理解できずにジェイドは聞き返す。


「はい…。

心…少し壊れてます…

私の力で癒します」


その声で冷たかったカナリーが熱を放つ。

それは明らかに超常の力、聖女の力だった。


「何をする!?無理をするな!」

「これ…が…私の…最後の…望み」


慌てるジェイドはカナリーの顔に落ちる涙を見て自分が泣いている事に気付く。


「涙…」

「泣いてください。…泣いて…心を癒して…あげて」

その言葉でジェイドは自分の中の溜まっていたモノが制御不能になった事がわかる。


「俺は!俺は自分が恥ずかしい!

こんな過酷な運命のカナリー達が居るのに自分を1番不幸だと思っていた!」

ジェイドは泣きながら訴えかける。


「仕方…ありません。世界は…知らない事の方が多いのだから」

またカナリーが笑う。

儚い笑顔が美しいとすら思えた。


「ジェイド様…、お願いを聞いて…ください」

「なんだ?言ってくれ!」


「私…を…グリア…で……葬って…」

「え?」


突然言われたのはカナリーを葬るのはグリアでと言う願いだった。


「皆の許可…貰ったの。グリア…行きたかった」

「わかった。任せろ」

ここでの拒否は何の意味も持たない。ジェイドは必死に了承をする。


「はい!…次…で…す。亜人とモビトゥーイ…倒してくださいね…」

「当然だ。亜人共もモビトゥーイも必ず倒す」


「ありがとう…ございます。お姉ちゃん…フラン…宿命から…………」

「俺が解放する。もう悲しい因習なんて要らない世界にする!」


「頼みますね…」

嬉しそうに涙を流すカナリー。

その横顔は窓からの夕日で赤く染まる。

カナリーは青白い顔より血色がいい健康そうな顔が似合うと思った。


「夜…まで…頑張りますね」

「ああ!頑張れ!少しでも一緒に居よう!!」

ジェイドは1秒でもカナリーが生きられるように声をかけていた。

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