第107話 謎。
ワタブシが施してくれた聖鎧との魔法契約が終わった。
当初は重みを感じた聖鎧だったが今は服を着ているのと何ら変わりない着心地で重さなんかはほぼ感じない。
「んで、これが盾な。盾は他の奴らにも触られる可能性もあるし、ワタゲシの奴から聞いたけど親父さんから人様の兜から鍋蓋までなんでも使えるように鍛えてくれたんだろ?だから盾の魔法契約は無しな。
だがお前らの言う聖鎧と同じ鉄で出来ているから防御力はバッチリだぜ」
ワタブシがジェイドに盾を渡してくる。
盾はジェイドが一番使い易いと言ったミドルサイズの盾だった。
この盾も緑色の指し色が映える白銀の楕円形の盾。
左腕に装着をして見ると安心感が増した気がする。
こちらは魔法契約をしないと言うのでそこそこの重さを感じるが一般的な盾の重さなのでなんの気にもならない。
「ありがとう、それでだな…」
「あ?何だよ」
何も滞りないだろ?と言う目でワタブシがジェイドを見てくる。
だがジェイドは右手が心もとないと言う目でワタブシを見ると「俺の武器は?」と聞く。
「ああ武器か、もうワタゲシの奴がタカドラの所に持って行ったから向こうにあるぜ」
ワタブシがタカドラの神殿を指さして言う。
「では…」
「おう、行ってこいって。俺もタカドラの魔法契約はよく知らないし、俺より手間かもしれないしな」
「わかった」と言ってジェイドが外に出るとジルツァークが後を追おうとしていたのだがすぐに歩みを止める。
「ジル?」
「うん…今はミリオン達が心配だからこっちにいるよ」
ジルツァークが少し悲しげな顔で言う。
自分も着いて行きたいのにセレストとミリオンが気になったのだろう。
「そうか?済まないな。だがジルがこっちに居てくれると思うと安心する」
そう言ってジェイドは前に出る。
ジルツァークは少し嬉しそうな顔をしてジェイドに手を振る。
内心、ジェイドにはわからない事が多い。
イロドリ達はジルツァークを危険視、いや…あの感じでは敵対視している。
それは随所でボカしつつ話していてもなんとなく感じる。
だがジェイドからすればジルツァークは頼れる女神で苦難の日々も煩いくらいに励まし続けてくれた。モビトゥーイに干渉値を払っても守ってくれた女神なのだ。
今の「安心する」と言うジルツァークに向けた言葉に嘘偽りはない。
本当にミリオン達の側にジルツァークが居てくれるのは心強いのだ。
同時にジルツァークに全幅の信頼を寄せてイロドリやタカドラを始めヘルケヴィーオやヘルタヴォーグ達を疑うのはもはや無理だ。
この約1ヶ月の暮らしが物語っている。
エクサイトの為に身を粉にしてジェイド達に尽くしてくれるエルフ、ドワーフ、ドラゴンの上層界の人々、別の神が創り出した存在。
その者達がジルツァークの創り出した人間であるジェイド達の身体を癒し、技を鍛え、力を授けてくれる。
そうなるとジルツァークもイロドリ達も目指すところが一緒の仲間でアプローチの方法が違うだけで誤解が解ければ仲間になるのではないか?
そうした考えからエクサイトに迫る外敵がいると言う事なのではないか?と思ってしまう。
そう思う事で自分の迷いなんかを片付けようとしてしまうジェイドが居る。
だが、その選択だけを思い込もうとする事が危険で間違いである事も直感でわかっている。
「まずは亜人を滅ぼしてからだな」
ジェイドはそう言ってタカドラの神殿を目指した。