第101話 思い出。
ジェイドはすっかり日課になった早寝をする。
ここ最近は週末にしかイロドリは現れていないのだがそれでも早寝のクセがついてしまった。
「ジェイド!」
その声で気が付いたジェイドは目を開けるとそこは夢の世界で目の前には慌てた顔のイロドリが居た。
「イロドリ?どうしたんだ?」
「マズいよ。リュウさんの準備が終わり切っていないのにジルツァークが待ちきれなくなっているよ!」
そう言われて今日の出来事を思い出した。
確かにジルツァークは先に進もうとしていた。
ジェイドはそれとなく延長を言ってみたがダメだった。
「どうすればいい?」
「1日でも長く出立を先延ばしにして欲しいの!
オジちゃんも上手いこと魔法契約の話を出してくれたけど出来たらその後3日くらい欲しいの!」
「大体後7日と言った所か?」
「うん。それまでに何の用意をするんだ?」
「リュウさんが死ななくなる為の時間稼ぎ」
「…そうか。やり遂げねばならないな」
タカドラはこの世界に必要な存在だと思っていたジェイドは力強く拳を握る。
「うん。1番マズいのは次の月曜日にジェイド達が旅に出ることだよ。
ジェイド達は次の水曜日までにリュウさんに起きる事を見てから旅に出て欲しいの!」
「わかった。では週末に魔法契約をして日曜日は性能テスト、月曜日にタカドラに仕上がりを見てもらい、その後は送り出す会をして貰おう。
そして水曜日を迎えるのはどうだ?」
「…うん。ありがとう。多分それなら間に合うと思う。
ヘルケヴィーオやオジちゃん、リュウさんには話を合わせるように頼んでおくね」
イロドリが色々と考えながらこの先1週間の予定を決めていく。
「わかった。たがイロドリが慌てるなんて初めて見たから驚いたぞ」
「ごめんね。
上手く行っているからと油断してたよ。
それに今は私の介入を知った他の神がお小言言ってて少し上手くいってなかったんだよね」
「お小言?」
「うん。
基本は他人の世界へは不可侵が望ましいって。
世界を作った神の思うままにしなさいって怒られたんだよ」
イロドリが怒られた時を思い出したのだろう。
プリプリと怒る。
「俺達は助けて貰っているのなら感謝するぞ?」
「うん。私もジェイドを助けたい。今も私を祝福してくれた女神が他の神を説得してくれてるから頑張るね」
「何かできる事があったら言ってくれ」
そう言うとイロドリが赤くなってモジモジとする。
「イロドリ?」
「…頑張れ、頼んだとか言って貰っても良いかな?」
最高潮に真っ赤になったイロドリがジェイドを上目遣いで見るとそう言う。
ジェイドは「ふっ」と言って笑うとイロドリの目線まで膝をつく。
「イロドリ。頼りにしてる。頑張ってくれ。頼んだぞ!」
ジェイドが言うとイロドリが泣きそうな顔で喜んで跳ね飛ぶ。
「うん!まかせて!私は祝福をされた女神!絶対にエクサイトを救うからね!」
そう言ってイロドリが去って行く。
目覚めたジェイドは部屋に入ってきたジルツァークに「ジル、時間が惜しいのだが寝る前にふと考えた事がある。言っても良いかな?」と相談を持ちかけた。
「どうしたの?」
「いや、俺たち3人にジルに、ヘルケヴィーオやヘルタヴォーグ、ハルカコーヴェ…ワタブシに、ワタゲシ、そしてタカドラ。
こうして会えるのは今だけかなと思ったんだ」
「うん。ジェイド達は亜人界に行くもんね」
「ああ。だから行く前に思い出を作れないかと思ったんだ」
「思い出?」
「ああ、昼に皆で飲み食いをして、楽しい記憶を持って行く」
「それで?」
「帰る為の約束を増やそうと思った。前にミリオンから言われて考えていたんだ。
ばあやにレドアに住んでもらって俺がモビトゥーイを倒した後に待つ人の元に帰れるようにするとミリオンが言っていた」
「ジェイドはここでもそれがしたいの?」
「ああ、皆で飲み食いをしたい。後はセレストに薬草ゼリーをもう一度食べさせたい」
これの半分は口から出まかせで残り半分はセレストが苦しむところを見たいだけだった。
セレストは育ちが良いからだろう。
生半可な事では怒らないのだ。
「えぇ!?ジェイドって意地悪〜」
「そうか?」
ジルツァークが嬉しそうに笑いながらジェイドの後ろから抱き着いてくる。
「ん、いいよ。思い出を沢山持って帰りたいって思える場所を作る為なら私は賛成だよ」
ジルツァークがジェイドの帰る為の思い出と言う言葉に反応して許してくれた。
「いつやるかだな。ヘルケとワタブシに相談してみるかな?」
そう言って迎えに来たヘルケヴィーオと一足先に工房に行く。
2人もイロドリから時間稼ぎの相談をされていたので話は思いの外スムーズに決まる。
「お疲れパーティがしたいって事だな?
俺も賛成、この疲れを労って欲しい」
そう言ってワタブシが鎧作りの手を止めて肩をさすりながら言う。
「ふむ。では出立の前の日にしようか?」
「皆の予定が合えばそれが良いかもな」
「後はこの先の予定だな。
聖剣と聖鎧が出来あがんのが明日の金曜日…とは言え多分夜な。
んで土曜日は1日かけて魔法契約」
「では日曜日は調整に使えないか?いきなり亜人界に行くより外の魔物を狩りたい。
それにワタブシに払う金貨も稼がねばならない」
ジェイドが代金支払いを理由にさりげなく引き伸ばす。
「じゃあ月曜日が送る会?」
ジルツァークが早く亜人界に行きたいのだろう。
結構忙しいスケジュールを用意してくる。
「いや…その日にはタカドラにお願いがあって訓練に使いたい」
「えぇ?タカドラに?何にするの?」
ジルツァークがタカドラの名前に過敏に反応をする。
「タカドラの賛成が必要だが、ジルとの繋がりを一時的に切って貰って魔物と戦ってみたいんだ。ヘルケの話ではセレストは思った通りだがミリオンは戦いの位置が大分変わるらしい。
ぶっつけ本番はあまりにも危険だ」
「あー…そっか。でもそれって今週中ではダメなの?」
ジルツァークがあくまで出発日を変えずに前倒しに出来ないかと聞いてくる。
「俺も正直考えたが聖剣と聖鎧を授かってからでないと意味を為さない」
ジェイドがそう言うとジルツァークが恨めしそうにワタブシを見る。
「俺かよ?俺頑張ってんぜ?」
「わかっているけど、もう少しなんとか頑張って欲しかったんだよ」
そうして訓練になる。
その日の夜、イロドリから「助かったよ〜。後は私とリュウさんが頑張るからね!」とだけ言われた。