過多想い
血塗れのフローリング。枯れた一輪の薔薇。真っ暗で静かな夜。血の海に映えるナトリウムランプの光。そして何よりも、私にもたれかかるあなた。全部あなたのために用意したんだ。
今日はあなたの誕生日。それと同時に私たちの記念日。初めてお話ししたのは5年前の今日、あなたが私に消しゴムを拾ってくれて何か言った時にあなたの気持ちに気づいたわ。声が聞こえなくたって、顔を見たらわかるんだからね。初めてあなたの家に行ったのが4年前の今日、笑い合いながら友達と下校してる姿は子供みたいで可愛かった。初めて一緒にご飯を食べたのが3年前の今日、卒業後のクラス会で私がレストランに着く前にはもうみんな帰っちゃってたけど、あなたの食べた茶碗についてたご飯粒、ちゃんと全部食べておいたよ。2年前の今日は特に忘れられない。あなたには私という女がいるのに他の女とホテルに行ってたわよね。わかってる。あなたは悪くないわ。悪いのはあの女。だからあなたにもう付き纏うことがないようにしてあげたの。とても綺麗な花火だったわ。混み合ったホームから打ち上げられたあの女は、小田急線の急行列車にあたった途端、手足がちぎれて体は潰れ、どれが顔でどれが臓器かわからないくらいぐちゃぐちゃだった。綺麗さっぱり忘れて私だけを見てくれるよになったかな。そして去年の今日。あなたはその女の子お墓参りに行ってたみたいね。なんで私たちの記念日に他の女のところに行くの?やっぱりあなたは私のこと好きじゃないの?そう思ったけど、帰ってきたあなたは、前日にポストに入れといた私からのメッセージを見て、震えながら泣いているんだもの。やっぱりあたしのこと好きなんだなって改めて思ったわ。
そしてあなたの21の誕生日。今年こそはちゃんと面と向かってお祝いしてあげようと思ったけど、部屋の鍵は持ってないしとりあえず空いていたお風呂場の窓からはいったの。結構大変だったんだからね。あなたが帰ってくるまでの間、部屋にあるあなたのもの全部に私の匂いをつけておいたわ。私が帰った後に寂しくならないように。さて主役の登場よ。あなたは私をみてまた震えて涙も出さずに泣いていたわ。そんなに嬉しいのかしら。あなたは私に何か叫んだけど私には聞こえない。あなたの声がどんな声なのか知らない。でもそれ以外は知ってるわ。5年前からちゃんと見てるもの。そんな私からのプレゼントは私と一緒にいれるということよ。また何かあなたは叫んでる。叫んでるのかどうかは首の血管を見たらわかる。今にも切れてしまいそう。苦しいんだろうな。私と一緒にいるんだから、苦しまないでよ。苦しんでるあなたなんか見たくないわ。そうだ。切れてしまいそうだから苦しいんだよ。いっそのこと切ってしまったら楽になるわ。ちょっと待っててね。私は包丁を手にした。今すぐ楽にしてあげる。あなたは必死にその包丁を拒んだ。なんで?好きなんでしょ?大好きな私があなたを思ってやってあげてるのに、なんで拒むの?あ、わかった。拒むのは手なんだから、手が無くなったら拒めないわね。勢いよく振り下ろした包丁は薬指の第一関節と小指全部を仕留めた。ダメダメ。これじゃまだ手はあなたの意思に反して動いてしまう。次はもっと強く振り下ろした。今度は右手首に包丁が刺さってうまく切り落とせない。ごめんね。痛いね。今すぐ楽にするからね。刺さったままの包丁を今度は玄関に叩きつけた。ポロっ。やっと落とせたね。あとは左手だけ。二の腕に刃を当てて思いっきり切りかかった。あれ。手首の時にくらべたらすんなり切れるわ。左手は楽に切り落とせた。よしっ。その切れそうな首の血管を一本ずつゆっくり切っていく。叫び疲れたのか、ちょっと包丁が入ったくらいの時に寝ちゃったみたい。起きたら楽になってるよにちゃんと全部切ってあげないと。ザクッ。ふぅ。大仕事だった。顔だけ持ってリビングのソファーに座った。顔は膝の上にある。寝顔も可愛いな。あなたの唇に優しくキスをした。冷たくてなんだかちょっと人間の匂いがした私の初めてのキスだったわ。あ、そうだ。私はあなたの体を持ってきた。足を私と同じ長さに切った。これで今度歩くときは同じ歩幅で歩けるね。そして今度はあなたの手を拾ってきて私の手に縫い付けた。これでずっと私に触れていられるわ。出来上がった私用のあなたのパーツを全部胴体にくっつけた。結構重いし、血でぬるぬるしてたけど、なんとか誕生日中にはできたわ。これで明日起きたら喜んでくれるかな。
さて、次は私の番ね。あなたの顔は崩したくないから私の顔を寄せることにするわ。目は私より少し大きいかしら。目尻を切り、目を広げた。あなたの鼻は私より少し低いかしら。包丁で鼻のてっぺんを剥ぎ落とした。あなたの口は大きくて笑顔が素敵なの。口を割いて口角を広げた。なんか私まで疲れてきちゃったわ。この続きは明日あなたと一緒にしよう、かな。
改めて誕生日、おめで、と、、。




