表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法大戦  作者: よっくん
魔法学園編
2/73

転入生

 西暦2278年5月18日 魔法学園 東京本部 校長室

「校長、失礼します、先の話にあった転入生をお連れしました」

 ドアをノックして入ってきたのは見た目20代前半くらいに見える女性である、身長は日本の女性には長身の168cm、肩よりやや下まで伸びた黒の長髪、、意思が強そうな切れ長の瞳、細身だが筋肉質な鍛えられた肉体、自衛隊の軍服をピシッと着こなし、その胸にはいくつかの勲章がつけられている。

 彼女の後ろにはこの魔法学園の制服をきた若い男性が立っている。身長は175cmと日本人男性としては平均的、スポーツマンらしい黒い短髪で一見すると普通の高校生に見える。

「佳代子さん、ごくろうでした、少しその子と二人でお話をしたいので外していただいて、いいですか?」

 校長室の机に大量に積み重なった書類の処理作業を中断して出迎えた女性は、身長160cm、見た目は20代後半くらいだろうか、ショートの黒髪、整った容姿を持ち、椅子にすわっていても背筋はピンと伸びている。すべてを見透かすような穏やかな眼差しを訪問者に向けていた。

「はっ」

 佳代子と呼ばれた女性は敬礼すると校長室から退出していく。

 校長はしばらく若い男性をじっとみつめる

「……なるほど、素晴らしいマナをお持ちのようですね、それに……私達が知らない固有魔法かしら……あら、初対面の方に失礼だったわね、ごめんなさい。私はこの魔法学園東京本部の校長をしている六道玲子よ、今日からあなたの身元引受人でもあるわ、よろしくね」


六道玲子ロクドウレイコ……魔法学園東京本部の校長、若い頃は魔法戦士最高ランクであるSランクまで上り詰めた日本の英雄、見た目は20代後半くらいにみえるが、実年齢は48歳


「神野義明です、本日からお世話になります」

 義明は六道校長に丁寧なお辞儀をした。


神野義明ジンノヨシアキ……魔法学園東京支部に入学する転入生


「あなたのことはいろいろ聞いているわ……その……」

 六道玲子は少し言いづらそうに義明から目をそらす。

「お気遣いは無用です、ただ、研究所や日本政府からも指示があったと思いますが、俺のことは他言無用でお願いします」

 義明は表情をまったく変えず、事務的にたんたんと述べる。

「義明君の情報は全てが国家重要機密扱いになっているわ、私が義明君を引き取ることになったときに、私だけでなくこの学園に関係する職員、私の家族、使用人達、それぞれに違反すると重罰が課せられる守秘義務が発生しているの。もっとも義明君の情報を知っているのは私とわずかな者のみですから、義明君は安心して学園生活を楽しんで頂戴。  義明君にはいろいろと期待しているけれど、POMの戦いでは決して無理はしないでね、あなたは日本の……いえ、人類の希望の一人なのですから」

 義明の情報が国家重要機密扱いになっているのには大きく2つの理由がある。

 その一つは【固有魔法(またはレア魔法とも呼ばれる)】と呼ばれる特殊な魔法を扱えることだ。

 現在、魔法には性質の異なる種類のものが大きく分けて七つ確認されており、一般にその種類は【属性】と呼ばれている。

 大抵の魔法戦士はいずれかの属性の適正を持つ。マナ適正があれば誰でも使用できる無属性、無属性を除くと大多数は四大属性といわれる地属性、水属性、火属性、風属性のいずれかを取得する。それらに加え、マナ適性を持つ者の中でも百人に1人しか取得できないといわれるレアな光属性と闇属性、この七種類が魔法の属性といわれる基本的な分類である。

 固有魔法とはこの七属性のどこにも属さない魔法のことである。この魔法は扱える者は国でも数人~多くても20人はいないといわれている超レアケースである。ただし義明が人類で初めて取得したというわけではない、日本はもちろん世界各国ですでに固有魔法を取得した超レアケースはいくつか確認、公表されている。

 固有魔法を取得できる条件などはいまだ解明されていない。

 固有魔法は他の属性の魔法と違い、魔素を取り込み、マナ変換できるようになった時点で情報が脳に刻み込まれ、魔法が即使用可能になる。そしてそのどれもが七属性の魔法と比べても強力な威力をもっていたり、特別な特殊能力を持つ魔法ばかりなのだ。

 固有魔法取得者は日本にも数えるほどしか存在しない、その個人情報はすべてが国家機密となっている。

 義明がさらに特殊ケースなのはもう一つ大きな理由がある。

 通常の場合、マナを扱えるようになる者は圧倒的に女性のほうが多く、同じマナを扱える者の比較でも。男性よりも女性のほうが保有できる【マナ量】や【マナ強度】が高い。

 その影響かはわからないが、、殆どの場合、固有魔法はマナ量が高い女性が取得している。それゆえ高ランクの魔法戦士はほぼ女性であり、同じ魔法戦士でも男性より女性のほうが重宝されている。

 しかし、固有魔法を使用できる者に限っては、その地位が逆転するのだ。

 女性の固有魔法を取得した魔法戦士は、若い肉体をより長く保ち、寿命も延びるが、子供を産むと、マナ量が男性並に落ちてしまう、マナ量が足りないと巨大なマナ出力を必要とする固有魔法もつかえなくなり、現役引退を余儀なくされる場合もある。

 ところが男性の場合はそのようなことがない、固有魔法を持つと寿命が延び、肉体は若さをより長く保つのは女性と同じだが、マナは子供を持っても衰えることがない。

 さらに、その者の生まれてくる子もマナ適正が高く、母親も優秀な魔法戦士であれば、固有魔法を取得する可能性が高くなる、つまり、固有魔法持ちの男性がたくさん子供を作れば、将来固有魔法を持つ、優秀な魔法戦士が増えていくということになるのである。

 だが、それらの事実が判明したとき、イギリスである悲惨な事件が起こってしまう――


 世界で始めて男性で固有魔法を取得し、後にイギリス本国に落下した小型隕石の一つを固有魔法で破壊、イギリスの英雄となった、Sランク魔法戦士ジャック・ハーンは、固有魔法は持たないが、優秀な魔法戦士の妻を娶ることになる。

 やがて、2人の間に2人の男女が生まれたとき、驚くべきことに、二人ともまだ赤子の段階からすでに固有魔法を取得していたのだ。

 この事実はまたたく間に世界中に広がっていく。

 このことが不幸の始まりであったことをこのとき誰が予想しただろうか……事実を知ったロシア、中国、フランス、ドイツ、そして同盟国であるアメリカまでもがイギリスにジャックやその子供達を拉致する諜報員を大量に送り込んだのだ。

 各国の諜報員同士の激しい戦闘は次第に激しさを増していき、ついには軍の特殊部隊や魔法戦士達も送られる人類同士の戦争にまで発展、やがて戦火はジャックの家庭を巻き込み――ついには妻と幼い2人の子供達は命を落としてしまったのだ。

 愛する妻と子共達の亡骸を目の当たりにし、人類に絶望したジャックは自らの命を絶ってしまう、後に遺体を研究材料にされないよう子供達や自らの遺体を一切残さずに――。

 

 この事件があってからというもの、各国は自国の優秀な魔法戦士、固有魔法使いの情報をすべてシャットアウトしてしまうようになった。

 義明の情報が国家重要機密となっているのはこのような経緯からである。

 

 六道校長の言葉を聞いた義明の表情がみるみると怒りの表情に変化する。

「それはお約束できかねます、あいつらは……俺が必ず地球から根絶やしにしてやります!」

 義明の体から普段は抑えていたと思われる膨大なマナが溢れ出し、感情がまったく感じられなかった瞳に怒りの炎が灯る。

 六道校長の瞳が悲しみに沈む。

(この子、あやういわ……過去の境遇を考えればやむをえないのかもしれない……この学園に通うことで良い方向に変わってくれるといいのだけど……)

「義明君、長旅で今日は疲れたでしょう、今後、私の家に泊まっていってね、部屋はたくさんあるから空いてる好きな部屋を使っていいわ、はい、これこの学園の周辺の地図よ、この丸してあるところが私の家、私は仕事の関係上、家にいることは少ないけど、家の者にはあなたのこと伝えておくわ」

 話題を変え、六道校長は義明に地図を差し出す。

「わかりました、これからしばらくの間、ご厄介になります」

 義明は心を落ち着かせ、溢れでるマナを抑える。冷静になった義明は校長にお辞儀をすると退出していった。

 入れ替わるように佳代子と呼ばれていた女性が再度入室してくる。

「佳代子さん、申し訳ないけど彼はあなたのクラスに編入させてもらうわね、なんとか彼を良い方向に導いてあげて」

 佳代子と呼ばれる女性はこの学園の教師のようである。


東堂佳代子トウドウカヨコ……現役Aランク魔法戦士にして魔法学園東京支部の教師


「そこまで酷い状態なのですか?」

 佳代子と呼ばれた女性が怪訝そうに確認する。

「ええ、まったく第5研究機関は彼にどんな教育をしていたのかしら……このままだと彼、POMと戦いになれば。命を落とすことにもなりかねないわ」

 佳代子はいつも冷静で穏やかなな六道玲子が、珍しく怒りをあらわにしていることに内心驚く。

「……了解しました、閣下、微力をつくします」

 佳代子は直立不動になり敬礼する。

「あらあら、佳代子さん、ここは軍ではありませんよ」

「失礼しました、校長」

 今度は深くお辞儀をして退出する佳代子を見送った六道校長は、窓際に立つと中部地区に落ちた巨大隕石の方角を窓からじっと見つめた。

(日本にも若くて優秀な魔法戦士が増えてきたわ、彼らが育てば、ようやく日本もPOMに反撃が可能になるでしょう


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ