第7話 初の実戦…?
悠木は考えがまとまった所で、ジャルタとセシルはまだ言い争いをしていた。
そして、気になった事があるのでジャルタに尋ねてみた
「そういえば、ジャルタは何でも知ってるみたいだけど、どれだけ学んできたの?」
「そうだねぇ…物心ついた頃から魔法に明け暮れてたから…っとと、レディに年齢を聞くのはマナー違反だぜユーキ?」
「いや年齢は聞いてないよ!?」
今日、出会ってから、ずっとジャルタのペースに乗せられっぱなしである。
「ボクの魔法は先代のジャルタから受け継いだ物さ。免許皆伝したからこそ当代のジャルタを名乗れるのだ!」
その答えにセシルが尋ねた。
「名前を聞いた時からもしやと思っていたが…剣の封印を見守り、久遠の遺跡の森林内に居を構える上にジャルタを名乗る…最初の勇者に付き従ったという…」
「ご明察!…って、ここまでキーワードがそろえば分かるよね」
悠木もセシルに続いて尋ねた。
「つまり、ジャルタは最初にモルド…えーっと」
「モルドラコス?」
「そう、そのモルドラコスを封印した勇者の仲間の…末裔とか子孫じゃなくて、関係者って事?」
「大正解!何を隠そう、ボクがえーっと…んー、第11代ジャルタなのです!」
「道理で、魔法を起用に扱うワケだな」
セシルの疑問も晴れて、改めてジャルタが心強い仲間である事に安堵を覚えたようだ。
「さて、ご飯も食べた事だし、皆も疲れたろう?セシル、よかったら一番風呂でもいかがかな?」
ジャルタの提案に、セシルは遠慮がちだったが、ジャルタは強引にセシルの一番風呂入りを押し切った
「そこまで言うなら…では有難く、湯を頂戴しよう」
「そうこなくっちゃ。ボクが案内するよ」
そうして、2人は食堂を後にした。
食堂に残された悠木はドラゴンに話しかけた。
「しっかし、セシルはかっこいいよな。ちょっと抜けてるけど」
『まぁそうだな。あの場で2人ともたたっ斬る事も出来ただろうに、俺もユーキも助けちまうからな』
「あれだけカッコイイと、さぞモテるんだろうな~」
『モテる?う~ん、でも同性にも人気が出そうではあるか』
「そうだよ、食事の席でもマントを外さないんだぜ?いつ襲われてもいいように臨戦態勢は抜かりなしって所だよ、きっと」
「おや?ユーキさんはマントを外さなかったのがそんな理由だと思ってたのか」
突然の声に振り返ると、ジャルタが帰ってきていた。
「お帰り。随分早かったね」
「場所だけ教えたしね。お湯はボクにかかれば即座にボンッ!てな具合にすぐに用意できるからね」
「本当に便利だなぁ…それより、セシルがずっとマントを着用していた理由って?」
ジャルタは少し考えて、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そっかー、そうかそーかーユーキは気づいてなかったんだね」
「え?気づいてないって…何に?」
「それなら、これはボクからの回答&プレゼントだ」
意味深な返答の後に、何やらぼそぼそと呟くと…
「きゃああああ!」
突然、浴槽の方から悲鳴が聞こえた。
「なんだ!?」
「大変だユーキ!ボクの結界が破られてセシルが敵に襲われてる!」
「なんだって!早くやっつけないと!
焦る悠木に、ジャルタは落ち着きながら答えた。
「それもそうだけど、ボクは結界を貼り直す!ユーキは先にセシルの救援を!」
初の実戦に、悠木は唾を飲みこむ。
「大丈夫!アニルマなら並大抵の敵なら何とかなる!ドラゴン君は結界の貼り直しを手伝ってくれ!」
『敵の気配は俺には感じられねぇけど…つーか結界とか俺に出来るか分からねぇけど、分かったぜ!』
(しかし、今の悲鳴、やけに高くて…まるで女のようだった…いや、今はそんな事より!)
「セシルの助けになるか分からないけど…俺、先に行くよ!」
悠木はアニルマを手に、浴槽へと向かった。
「さて、彼は別の修羅場を踏む事になるかも知れないけど、これもボクからの訪問記念さ」
『で、結界とかってどうやって直せばいいんだ?』
「ドラゴン君も結構天然だねぇ…敵の気配を感知できないのはいいとして、仮にボクの結界を破れる奴だとセシルはともかく、今のユーキは瞬殺されちゃうよ」
ジャルタの答えにドラゴンは驚いた。
『おいおい、そんな奴相手にユーキを向かわせたのかよ!?』
「言ったじゃないか。これはボクからの訪問記念さ。このイマージュに召喚されたユーキに向けた、ね」
ジャルタはウィンクしてみせた。
「セシル、大丈夫か!?」
風呂場に足を運ぶと、突然バスタオルに身をくるんだセシルが飛び出した。
「ユーキ!ユーキか!!」
セシルは涙目になりながら悠木に抱き着いた。
「大丈夫か!敵…は…」
なんだこれは。
悠木に柔らかい感触が伝わる。
「セシ…ル、もしかして」
悠木は顔を真っ赤にしながら唾を飲み込み、
「女の子…だったのか」
悠木の反応に、セシルも顔を真っ赤にして悠木から離れた。
「あ、いや私は…旅の剣士、ただのセシルだ。出来れば忘れてほしい」
もじもじしながら真っ赤なセシルが懇願するが、悠木の頭には届いていない。
「そ、それより敵は!?」
「敵…?敵っていうより、突然お湯が真っ赤な血のような色に染まって!」
「ごめんごめん、今はもう大丈夫だよ」
ジャルタとドラゴンが追いついてくる。
「それはボクの幻惑魔法さ。セシルには湯の色が真っ赤に見えるようになってたんだよ」
「なっ…なんでそんな事を!」
「いや~、ユーキとセシルがもっと打ち解けたらいいな~と思ってサ。…後はユーキの歓迎も兼ねて」
「ちょっと!歓迎って何よ歓迎って!」
「あちゃー聞こえてたか。いやなに、ユーキがまだセシルを男と思ってたようだからセシルのお披露目も兼ねてさ」
「なっ…私は男…ではないが…それより、そんなにお披露目したければジャルタが見せればいいじゃない!」
「でもこれでユーキとの中も距離も縮まったし、お二人さん水入らずって事で!」
セシルとジャルタの言い争いは加熱の一途を辿るが、悠木は上の空だった。
『おーい、ユーキー?』
夜が更けていく。長い1日が、終わろうとしていた。