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第6話 初の異世界料理

鬱蒼とした森に弧を描いた草原、その端にそびえ立つ洋館。

「ようこそ、ボクの工房へ!」

入る前に狭苦しい、などと形容してたが、どう見ても大きい。

勿論、玄関を潜ると間取りの広さにまた驚いた。

まず、物があまり置かれていない。広々とした客間に階段、それだけ。

2階は吹き抜けになっており、1階を見下ろす事ができる。昔、遊んだゲームで似たような構造を見た気がする。


ジャルタの案内に食道へ行くと、質素な長方形のテーブルに整頓された台所がある。

「今日はシチューだよ~」

果たして、異世界で振る舞われるシチューとは一体…!

てきぱきと魔法でガス、水道に相当する火力、水力により調理するジャルタ。

特に空飛ぶ包丁は目を見張る物があった。タンタンとリズミカルに、しかし高速で野菜をみじん切りにする様はまるで映画を見ているようだった。

「お待たせ!森の野菜具だくさんのキノコシチューだよ!」

大道芸じみた調理方法から出来上がったシチューは一見、何の変哲もないシチューに見える。

しかし異世界のきのこというのは少し…いやかなり気になる。いい意味でも、悪い意味でも。

(いや、せっかく作ってくれた料理に対してあれこれ考えるのは失礼だ)

悠木はジャルタ特性シチューを口にした。

「おお、うまい!」

見た目はマッシュルームに似ていたけど、弾力があって噛み応えがあり、味も肉に似ていてキノコとは思えなかった。

この味付けに対するシチューが実にまろやかで、飽きが来ない。

今日一日の怒涛の展開で空腹で、不安だった悠木にとって初めての、そして忘れる事のない異世界メニューだった。


『いや~、キノコってこんなに腹いっぱいになるんだな!』

「私も、それなりに色々な料理を食したが、こんなに濃厚な味がするキノコは初めてだ」

「みんなに喜んでもらえてボクも嬉しいよ!お客さんは久しぶりだからね」

皆が食べ終わり、しばらくしてからジャルタが悠木に問いかけた。

「さてさて、召喚されて色々大変だと思うけど、どうする?」

「どうするって…何がだ?」

「お風呂にする?それとも…」

マジか!セシルとドラゴンもいるのに古めかしい…新婚さんみたいな台詞が飛び出すのか!?

「何か聞きたい事はある?」

「おお、そう来たか」

「うん?ユーキは何か他の事を期待していたのか?」

セシルが問いかける。

『俺も気になるな、俺たち何も知らない同士で他に何があるんだよ?』

その通りなだけに、ジャルタの問いかけに少し期待した俺がバカみたいだし、この2人にどう説明すればいいのか。

「そりゃ~決まってるよ、ユーキはね…腹ごしらえの特訓と行きたいんだよ!」

「いや、それだけは本当にない!お願いだから今日はもう勘弁してほしい」

3人が悠木のうろたえように笑い、悠木も釣られて笑いだした。心の底から、笑っていた。


「聞きたい事は2つある。1つはセシルにも聞くんだけど、俺が剣を抜く事でモル…あの竜が復活するなら、事前に俺を殺してもよかったんじゃないか?」

悠木の問いにセシルが答えた。

「もっともな質問だが、召喚の儀式の最中は私は羽交い締めにされていたし、手出しは出来なかった。何より、あの場でユーキを手にかける事は選択肢にはなかったよ。これでも正義の味方だからな」

「そうか…有難う。ところで、その正義の味方っていうのは一体…」

「いや、風の噂で聞いたのさ。近々、教団が召喚の儀を執り行うと。その野望を食い止めるために私は馳せ参じたのだ」

だが、結果として敵に捕まり、儀式も成功した。ひょっとして、セシルは結構、残念な奴なのでは?

「それはボクも気になるね。キミがどこでその噂を聞きつけたのか」

「話せば長くなるんだが…」

3人は固唾を飲んだ。

「酒場で怪しげな2人組が儀式がどうの、この日に行うだとか言っていたのでな」

「短いな!」

そして教団の団員のコンプライアンスとか大丈夫なのか?一応世界の破滅を目論む組織なのに…

どこにでも残念な奴はいると言う事か

「でも、キミが動いてくれたおかげで、遺跡内を見通せなかったボクが動く事が出来たよ。有難う」

確かに、ジャルタの手引きがなければ2人ともどうなっていた事か…

「それでユーキ、2つ目の理由って?」

「ああ、2つ目は…俺自身が強くなるのが一番ってジャルタは言ってたけどさ」

悠木は唾を飲んだ。

「やっぱり、生き延びて元の世界に帰る上でさ、人を…殺す覚悟も必要なのかなって」

2人と1匹は悠木を見つめた。

「そっか、ユーキは日常で死が無縁な世界から来たんだね」

ジャルタが答えた。

「それはとても幸せな事だけど、この世界においてはその疑問や考えは枷になるし、命取りになると思うよ」

いつになく神妙なジャルタに悠木も、セシルやドラゴンも目を伏せる。

確かに、アニルマは凄い剣だ。

しかし、使い方を間違えると取返しのつかない事になる、そう感じた。

当然だがアニルマは剣で武器だ。武器である以上、相手を殺す物に他ならない。悠木はそう考えていた。

「いいかい、戦いは命の奪い合いだ。だけど、君の命はたった1つきりの物って事を忘れちゃいけないよ」

「…それが、例え相手を殺す事になったとしても?」

ジャルタは少し間をおいてから、答えた。

「君には帰るべき世界があるんじゃないのかな?」

「そりゃ勿論さ」

「だったら、もう答えは出たも同然だね!」

分かるようで、分からない。

「いや、全然分からないんだけど…」

その呟きにセシルが答える。

「元の世界に戻るまで、ユーキはユーキ自身を守る為に迷いは捨てるべきだって事さ」

「セシルはちょ~っとユーキに優しすぎる気がするなぁ」

ジャルタとセシルが話し合う中、ドラゴンが声をかけた。

『やらなきゃ殺られるって時でも、相手の事を考えてたら疲れるぜ?』

「そうだな、俺もお前ほど気楽に考える事ができたらいいんだけどな」

『俺は俺で不安いっぱいだぜ~?自分の事なんか全然分からない上に俺は世界を破壊するモルドラコスかも知れないんだろ?だけど、考えた所で答えなんて出てこないからさ』

こいつもこいつなりに、やっぱり不安なんだな…

そう考えると、悠木は少し楽になった。

いつか、相手の命を奪う局面が来るかもしれない。

覚悟は必要だけど、その重さや責任に押しつぶされる必要はない、そう思ったからだ。

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