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第5話 ジャルタ流のレクチャー

突然のカミングアウトに悠木は面食らったが、一つの疑問が生まれた。

「百歩譲って、そこのドラゴンが世界を滅ぼす力があるとしよう。だけどさ…」

一度、ドラゴンに目配せして、ジャルタに問いかけた。

「あんまり言いたくないんだけど、その…殺した方がよくない?」

『なっ…!』

ドラゴンの言葉にならない声に胸を痛める。だから悠木も口にするのは躊躇ったのだが、確認せずにはいられなかった。

「その意見はごもっともだけどサ、伝承にある事柄を考えるとそんな簡単には行かないんだ。ちょうどいいからこの世界の成り立ちも含めてユーキに教えてあげるよ」

ジャルタはコホン、と咳払いをしてから、

「今から10万年か、いや正確な年代も定かではない古の時代、見渡す限りの荒野だったこの世界に、一体のドラゴンが降り立った…」


ジャルタの話によると、そのドラゴンは命を司る力があって、砂一面のこの世界に草木を芽吹かせ、緑あふれる大地と見渡す限り一面の水たまりを作り上げ、命の種子を世界にばらまいた。

種子はドラゴンの手助けを借りながらさまざまな種族に進化し、我ら人類の祖先に知恵を授けると、この世界を任せてドラゴンはどこかに消えた…らしい。

ここまではよくある神話的な話だけど、今から800年ほど前に一匹の竜がどこからか現れ、破壊と殺戮の限りを尽くした。

諸国はこのドラゴンに対してあらゆる手を尽くしたが、不死ともいうべき再生力で数多の戦士を返討ちにしてきた。

そして400年前に光の剣を携えし勇者が自らの命と引き換えに竜を封印する事でこの世界に再び平和をもたらした。

「…以上がこの世界の成り立ちとこれまでの経緯だよ。その剣、アニルマで封印する事でようやく破壊龍モルドラコスは活動を止めた。それからその剣を何人たりとも抜く事も叶わず、恒久の平和が約束された…はずだった」

ジャルタは一呼吸置いて、続けた。

「前置きが長くてごめんよ。でも平和を壊そうとする厄介者が現れた。それがモルス教団サ」

モルス教団。

モルドラコスを信奉し、神と崇める事でモルドラコスの破壊を免れ、共に新世界へと生き延びる事を掲げた連中。

モルドラコスが封印されてから鳴りを潜めていたが、約40年前に新たな教祖の意向でモルドラコスの封印を解く事を理念に掲げてアニルマを引き抜く為にあらゆる活動を行ってきた。

そして異世界の勇者の手を借りる事でこの剣を引き抜き、封印を解く事に行きついた教団は、国家間の対立で手薄になっていた久遠の遺跡を占拠し、召喚の儀に臨み…

「晴れて、ユーキ君がこの世界にお呼ばれしましたとサ」

「なんか、勇者とか言われてるけど、疫病神みたいだな、俺」

「そんな事はないサ。その剣、持ち主以外にはただの重りでしかないけど、物をスパスパ切ったりひたすら頑丈なのがウリじゃなくてサ」

ジャルタは一呼吸置き、

「…魂に、干渉できるんだ」


(魂?えらくあやふやな物だな)

「なぁ、それってどういう…」

『ちょっと待ってくれよ、さっきから色々言ってるけど…俺は一体なんなんだよ!?』

ドラゴンが吼える。突然の叫びに頭がキーンとした。

『そこの人間…ユーキがその剣抜いて封印解いて、何で俺が出てくるんだよ!?』

ジャルタは人差し指を頬に当てながら、

「んー、そこから先は伝承にも伝えられてないし、未知の領域なんだよね。確かに剣を抜く事でモルドラコスの封印が解かれる、とは伝承にあるけど、誰もやった事ないからサ」

話を聞いていたセシルがドラゴンに問う。

「すまない、これだけは確認させてほしい。ドラゴンよ、貴方はモルドラコスではないのだな?」

『何度も言ってるけど、ノーだ。俺は生まれた時からその剣に縛られてたんだ』

「生まれた時から…?言葉を操れるようだが、何か…過去の記憶、モルドラコスの記憶などは?」

『ねーよそんなもん…この言葉っていうのも、生まれた時から理解してるっぽい』

「キミに関しては、現状分からずじまいだね。これもアニルマがもたらした現象かもしれない」

ユーキが問う。

「その、さっき言ってた魂に干渉とか何とか」

「そそ、それそれ!」

ジャルタが杖を構える。

「話ばかりで退屈してたでしょ?」

帽子を目深にかぶり直し、口元を釣り上げた。

「ここからは習うより慣れろ、サ!」

ひとっとびに悠木に近づき、構えた杖で襲いかかった!

「なっ!?」

とっさにアニルマで杖から身を守る。

「何するんだ!」

「まずは、ボクを倒して見せなよ」

ジャルタは足払いをかけるが、とっさに飛びのく事で悠木はこれを回避した。

「待てよ、意味が分からねぇ」

「あれこれ教えるよりも、まずは感覚としてその剣を思うがまま振ってみなよ。ボクは魔法を使わないから安心してね!」

そう言って、ジャルタは襲いかかってきた。

動作の1つ1つはそこまで早くはないが、的確に杖を振り回してくる。

悠木も身を守る事で精一杯だ。

「だから…意味が分からねぇって!」

突然の攻撃に怒りを覚えた悠木は、ジャルタに向けて剣を振り下ろした。その瞬間だった

アニルマは光を発して、剣身の何倍もある光の束となってジャルタに襲いかかる!

場の誰もがこの光景に驚きを隠せなかった。ジャルタを除いて。

「オッケーオッケー、でもこのままじゃちょーっとヤバいね」

ジャルタはひらりと斬撃をかわしたが、光の束はそのまま前方に走って行った。さしずめ、光の刃だ。

「大地よ、障壁となりてその障害を受け止めよ。モベニカ!」

ジャルタが何かを呟き、光の刃に杖を向けると、光の刃に向けて地面が盛り上がって光を受け止めた。

轟音と共に、柱となった地面は吹き飛び、光の刃も消え去った。

「ふ~、危ない危ない、このままだと一面に貼った結界も破っちゃうからね。そうなると外の教団にこの場所がバレる所だった」

悠木は恐る恐るジャルタに尋ねる。

「い、今の光は…」

「うん、それがアニルマの力さ。持ち主の魂から迸る感情とか願いに応じて、色んな力が出せるんだ」

なるほど…そしてこの剣は俺にしか持てない。これは凄い。

「凄い力だ。振ったらビームだかレーザーだか出せるんだもんな。でも…凄く疲れた」

疲労困憊の悠木の横にジャルタが並ぶ。

「今日はお疲れ様。そろそろ日も暮れる、今日は僕の家で休むといいよ。お腹も空いただろう?」

ジャルタの提案に、悠木も首を縦に振る。

「ささ、みんなもようこそ。狭苦しい工房だけど、今日はみんなの歓迎パーティだ」

満面の笑みで、ジャルタは執事のようなポーズを取り、歓迎の言葉を皆に浴びせた。

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