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第2話 モルドラコス

悠木は深々と刺さった剣を引き抜いて見せた。力を込める事なく。

その際、別々に声が聞こえた…気がした。

1つは、剣を差し込まれていたドラゴンから。

もう1つは、組み伏せられた人物の叫び声が。


ふと振り返ると、まだ地に組み伏せられた人物は目を見開き、悠木を見据えていた。

しばしの間、その場を静寂が包む。最初に静寂を破ったのは剣を抜くように指示した男だった。

「素晴らしい…どれだけこの時を待ちわびていたか!」

男は歩み寄り、両手を広げて歓喜の声を上げた。

「300年!モルドラコス様を長きにわたり封印せしめた忌々しき楔を!ようやく…ようやく解き放つ事ができました!今こそこの大地を破滅と死をもって、再誕の狼煙を上げましょうぞ!!!」

ドラゴンは答えない。再び静寂が場を包み込んだ。


なんだ、何も起こらない…そんな考えが頭をよぎったその瞬間だった。

かすかに、ドラゴンから土や埃が舞い落ちる。

おおおお…等と、静かに歓声を上げる男。それに応えるように、ドラゴンの内側から光が漏れ出ていた。

(嘘だろ、この剣抜いた事でこいつが復活って…つまり俺が悪いって事!?)

次第に光と音が強くなり、ドラゴンを覆っていた土や灰が、ボン!と音を立てて吹き飛んだ。

砂煙が舞い上がる。男はひたすらに見据え、悠木は咳きこみ、人質とされる人物はただただ、舞い上がった砂煙を見つめていた。


『ふわぁ~あ。よく寝た~…って、何も見えやしねぇな』

なんだか陽気な声が聞こえて来た。凄く物騒な事を男が言っていただけに、空いた口が塞がらない。

『どれどれ、まずは一扇ぎっと!』

刹那、砂煙が突風で吹き飛ばされていく。どんどん視界が開けていく。

しかし、ドラゴンの巨体は現れる事なく、代わりに小さなドラゴンが一匹、パタパタと羽をばたつかせていた。すると、

『あ~!』

突然、悠木の元に小さなドラゴンが詰め寄り、せわしなく飛び回った。

『その憎らしい剣!俺をず~~~~~っと縫い付けてた奴だ!お前か?お前が引っこ抜いたのか!?』

この頭に直接響くような声。まさかと思ったけどその主が、この目の前をバタバタ飛び回るコイツがその正体かと、ようやく得心がいった。

「あ、ああ。確かに剣を引き抜いたのは俺だけど」

『やっぱりそうか~っ!や~~っと晴れて自由の身になったぜ~~~~!』

ひときわバタバタさせ、宙返りしてみせた。本当に嬉しそうに。

そのやりとりをただ、茫然と眺めていた男は静かに呟いた。

「お、お前はなんだ?モルドラコス様はど、どこにやったんだ…?」

小さなドラゴンは、首をかしげてキュルル、と小さく鳴いた。

「おい、お前!このトカゲはな、なんだ!」

男はたまらず、悠木に声を投げかける。


「いや、俺にも…って、あれ?俺に言ってる?」

「お前以外に誰がいる!」

驚いた。先ほどまで何がなんだか分からない言葉がしっかり日本語に聞こえている事に。

そういえば、この小さいドラゴン?にも色々会話してるし、この男にも話が通じるようだ。

一体、何故?そういえば、この剣を引き抜くときにもだめとか何とか…

「はあっ!」

突然、男が吹き飛んだ。先ほどまで組み伏せられていた人物が、柄にしまい込んだまま剣で殴りつけていた。

「こっちだ!」

その人物は悠木の手を取り、一目散に洞窟の出口へ走り出していた。

「ちょちょ、ちょっと待って!」

突然の動作にこけてしまいそうになりながらも、共に足を運ばせる。

『お?待てよどこ行くんだ~』

「いや俺にも何が何だか!」

「まずはここから出る、えーと…勇者さんでいいのかな」

「ゆ、勇者!?」

そのまま2人と1匹は出口へと姿を消した。


「…おい、おい!」

先ほど、倒れた男がもう一方の人物に声をかける。儀式の横やりを入れて来た何物かを抑え込んでいたはずだ。

だが、相方から返事はない。見るとうずくまって苦しんでいた。

「…っ、一瞬の、スキを突かれ…すみません」

「クソッ!」

想定外の事態の連続に男は激昂した。

(クソクソクソクソクソ、クソッ…何だ、どこの手の物だアイツは!)

男は思考を巡らせる。

(いや、それはまだいい…召喚の義も成功した。適格者が楔を引き抜くのも問題なかった…それがなんだあのトカゲは!)

「モルドラコス様…モルドラコス様!」

男のすがるような声は洞窟内に空しく響いた。


「首尾は?」

突然、男の傍らに二人組が現れた。

「し、神官長に近衛隊長!」

神官長と呼ばれた黒づくめの人物が男を一瞥する。

「あのお方の反応が消えたので来てみれば、楔の剣諸共消え失せているではないか」

「ハッ、適格者を召喚し、楔を引き抜かせましたが…モルドラコス様は消え失せてしまい…代わりに小さな羽虫のようなトカゲが入れ替わったように」

「羽虫…?」

神官長の目に怒りが灯る。

「それはお前のほうではないか」

突然、目に見えぬ力に男が締め上げられた。

「それで?器はいずこへ?」

「う…あ、ぐ…う、器…とはいった、い…」

「…もういい」

男を縛りあげる不可視の力が首を絞めあげ、首をへし折り、男は絶命した。

「貴方もこうなりたい?」

先ほどまでうずくまっていた男が震えながら、出口を指さして答えた。

「て、てってて適格者と共にあああああちらへ」

「そう。バルカス!」

「ハッ」

「今すぐ生け捕りにしなさい」

「ハッ」

近衛隊長バルカスは即座に出口へ向かい、追跡を開始した。


「楔を引き抜き、目覚めたばかりのあのお方への供物にするつもりが、仇になってしまいましたね」

神官長は震える男に詰め寄り、ただ一言、「ご苦労様」と声をかけると、男は首を一回転させて倒れ込んだ。

「器の確保を急がねば」

そう言って、神官長は再び姿を消した。

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