第1話 光に導かれた先で
「はー…分からないもんだな」
ベッドに寝転がりながら、柄を持ち上げて剣を中空に眺めながらそう言った。
『おいおい、もし落としてクビちょんぱでもしたらどうするつもりだ~?』
突然、頭に声が響く。
「…この直接響くのもちょっと慣れてきちゃってるし…へーきへーき。重さはあんまり感じないからさ」
首を横に向けると、そこそこ大きな黒トカゲが羽をバタバタさせている。
『む~?今失礼な事考えてないか?』
「いやいや、なんでトカゲが喋れるんだろ?なんてこれっぽっちも」
『あ~~~!やっぱり考えてやがる!』
いきなり頭に大声が響くもんだから思わず耳をふさぐ。そんな事はお構いなしに声は頭に響いた。
『だから俺はトカゲじゃねーの!偉大な破壊龍なの!そこん所間違えるなよな!』
…そんなナリで破壊龍だか物騒な事言われてもな~
「悪かったって。ごめんごめん」
『ったくよ~、頼むぜホント』
しかし、本当に分からないもんだ。まさか、突然こんな世界に連れて来られるとは…
いつもの学校
いつもの帰り道
そしていつもの日常
でも、再来年にはいよいよ卒業という所で進学か就職するかを決められずにいた。
(そろそろ決めなきゃなんだけど、イマイチ実感が沸かないんだよなぁ)
野球で特待得られる程上手くもない、頭もよくない、就職するにも行きたい所もない。
そんなないない尽くしな城島 悠木が帰宅する際の出来事だった。
突然、光の柱が悠木を包んだ。
困惑する悠木をよそに、光はどんどん強くなっていく。瞼を閉じても遮る事ができない程に。
「なんだこれ!?一体どうなってるんだ?とにかく眩しくて目も開ける事が…!」
走って逃げようにも、気づけば足から地面の間隔が消えていた。どうやら空に漂っているらしい。
「うわあああああああああ!」
未知の体験に声を上げたが、閑静な住宅街には周りに人も存在せず、断末魔を残して悠木はこの世界から消失した。
…ほんの数秒の出来事だった。
だが、悠木には永遠に感じられた。
両腕で顔を隠していたが、張り詰めた空気が身を包んでいるように感じた。
「…?」
恐る恐る、右腕を下げて間を作り、周りの様子を確認した。幸いにも光は収まっていた。
しかし逆に、目を閉じていたので何も見えない。
(俺はさっきまで街中にいたはず…まさか、もう夜になったのか?)
「○△◇□!」
突然、聞きなれない言葉が聞こえた。
振り返ると、外套を纏った男が1人、松明を手に満面の笑みで悠木を見据えていた。
松明の光が周りを照らす。見慣れた住宅街は、瓦礫が積もった洞窟か、それとも室内か…
男のそばには、同じく外套を纏った人間がフードを被り、何者かを拘束しているようだった。
「~~~!!」
拘束された何者かは必死で何かを叫んでいるようだが、何も聞き取る事ができない。
だが、目があった。やはり必死の形相で悠木をにらみつけている。
(なんだ?人質にされているのか?)
尋常ではない雰囲気を感じながらも、突然の状況にまだ理解が追いつかない。
そこへ…
「□○△#$、%◇!」
先ほどの男が再び何かを叫び、前方を指さした。
顔を元に戻す…途中で、ひときわ大きな瓦礫が見えた…瓦礫?
違和感を覚えた悠木がよく見ると、それは腕だった。
「ひっ!」
小さな声を上げ、その腕が伸びる先へ恐る恐る瞳を運ぶ。
(何だ、何だ何なんだこれは!?)
恐怖が頭を支配する中、目の前の巨大な腕が何なのか…確かめずにはいられない。
やがて、腕の先に行き当たる…胴体だ。大きい!ゆうに5メートル以上はある!
恐る恐る前を向く。刹那、その巨体の主が悠木を出迎えた!
ひっ!などと悲鳴をもらして腰を抜かす悠木。とっさに両腕を組みんで身を守るが、襲われる気配はない。よく見ると動く気配すらない。
「…何だよ作り物かよ、驚かせやがって」
内心バクバクながらも、巨体の胴体に何かが突き刺さっているのを目にした。
(あれは何だ、剣か?)
凝った銅像だな、などと感心していると、松明を持った男が悠木のすぐそばまで来ていた。
男は悠木を一瞥し、またも前方に指を刺す。どうやら剣に向けて指さしているようだ。
「%○#!」
男は叫び、両手で何かを引き抜くようなポーズを取った。
「…もしかして、抜けって言ってる?」
意志を確認したが、男はあご先をくいくいするのみである。
体を起こし、巨体に歩みを進める。やはり大きい。動かないのを見ると作り物だと思うんだけど、何かそんなチャチなシロモノじゃなさそうにも感じる。
どっしりとした二本足、バランスを取るように円を描く尾、そしてよく見ると後ろに羽を広げている。この真っ黒な巨体は家のゲームや漫画で見た事がある…確か…
「ドラゴン…?」
何かを迎え撃つようにそびえるドラゴンのオブジェに突き刺さった剣。なんだこれは、新種のアトラクション?
それにしては、真に迫っている。迫り過ぎている。なんだか扱いが人質みたいな人もいるし。
(あの人助けて逃げるのが一番…だと思うんだけど)
あいにく、武器と呼べるものもなかった。あるとしたら、このドラゴンに突き刺さった剣1つだ。
よく見ると剣は深々とドラゴンに突き刺さっている。
(抜けるのか?これ…何より使えるのか?)
理解不能な出来事の連続だけど、不思議と嫌な気分はしなかった。むしろ気分は高揚していた。
ゆっくりと柄を握る。そのワクワクの正体がわかった気がした。
握った瞬間、体の一部のように馴染んでいくのを感じた。
「◇□◇◇ーーー!!!」
突然、人質のような扱いをされていた人物が拘束していた腕を振りほどき、叫んだ。
拘束していた人物が何かを叫びながら、人質を組み伏せる。
それでも、人質は何かを叫び続けていた。
「待ってろよ、今助けてやるからな!」
悠木は柄をしっかり握り、勢いよく引き抜いた。
-待っていたぞ-
何か声が聞こえた気がした。
「だめええええええええ!」
誰かが叫び声を上げた。
剣は無事に引き抜かれ、悠木の手に握られていた…