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9 お人好しの別れ


「もう、着いてしまったようだ」


カイが寂しそうにそう言うから尚更、離れがたくなってしまった。


でも、そろそろ別れの時間だ。


「うん。また、来月会えるといいね。今日は本当にありがとう」


笑顔で言ったつもりだったのにどうやら私の顔はそうではなかったらしい。寂しさからか、日常生活に戻らなければならない絶望からなのか私の頬を涙がつたう。


「無理に笑わなくていい」


カイは私を抱きしめると私と同じような悲しい顔をして言った。 泣くなとか、悲しそうな顔をしないで、とか言われると思ったのに「無理に笑わなくていい」と言ってくれた。


私にそんなことを言ってくれるのはカイだけだ。


彼の前ではいつも簡単にできる作り笑いが全く出来なくなってしまう。私が無理に笑おうとしたことも彼には分かっていたようだ。


カイには驚かされてばかりだ。そんな彼だからこんなにも愛おしいんだろうけど。


「またね」


「あぁ」


最後の別れはお互いそれ以上何も言わなかった。遠ざかっていく彼の背中を見つめていた。




「すみません、遅くなりました。」


店に帰ってきた時にはもう夕方になっていた。


「いいのよ。店の手伝いより大切なことがあるでしょう?」


全く気にした様子もなく私を迎え入れたメラニーさんは何かを渡してきた。


「これは………何ですか?」


袋の様なものだが中に何かが入っている。


「これはね、カイが落としていったんだよ。何が入ってるか分からないが今度会った時渡しといてくれないかい?」


「えぇ。もちろんです」


そう答えたはいいが、次会えるのはいつか分からない。

カイが焦っている様子もなかったし、まぁ、次に会える時に渡せればいいかと思い袋をしまった。


「今日は本当にお手伝いがあまりできなくて申し訳ありません」


私はもう一度頭を下げた。


「気にしなくていいのに。二人が幸せそうなだけでおばちゃん十分だからね」


「ん、少し痛いです」


今日は調子がいいのかテンションの高いメラニーさんはバシバシと私の背中を叩いた。


「はっはっはっ!はやく結婚しなさいよ」


メラニーさんは豪快に笑うとそんなことを言った。


「そうですね……」


結婚か………。


考えていない訳では無いが、きっと彼と私ではその望みは叶わないのだろう。


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