70 お人好しは卒業
完結しました!
その言葉に会場にはどよめきが走ったがそれも一瞬、すぐにどよめきは祝福に変わった。
「まぁ、いつ発表になるかってくらい有名な話だしな。」
「えぇ。あの時のパーティーからお似合いだと思っていたのよね。」
その言葉に少し安心したが緊張から足の震えが止まらない。
「大丈夫だ。全員とは言わないが多くの者が祝福してくれている。」
小声で私に囁くと組んだ腕に僅かに力が籠った。安心させるために言って下さった言葉に震えが少し収まった。
「今宵は夜会を楽しんでくれ。」
その後、私は多くの貴族の方達から質問攻めに合ったが皆優しい方で祝福して下さった。
これはフィリーネとメイリア様の人脈のお陰でもある。
少し夜会に疲れてしまい壁際で休もうとしたら、殿下が優しく私の手を取って美しい笑みを浮かべると
「少し、バルコニーで話をしないか?」
と言った。私が疲れているのが分かったのだろうか気を遣わせてしまったようだ。
「ありがとうございます。」
伸ばされた殿下の手をしっかりと取った。その温かさに心まで溶けてしまいそうな気分だ。
いつだかルーカス殿下に話し掛けられたバルコニーだ。あの時から始まったのかな?
それとも私が街に買い出しに行かされた時からだろうか。
今ここに立っていることが奇跡で、憧れの存在である殿下が私の傍で笑っていて。
こんなにも幸せなのに不安になってしまう。不安が指先から伝わってしまわぬようにそっと手を離した。
「ニコラ。私との婚約で君を苦しめる事がこの先少なからず待っている。幸せにしてやりたいが立場上苦しめる事もある。君に普通の幸せをあげられないことを申し訳ないと思う。それでも私と一緒に生きてくれるか?」
星空を見上げていた瞳が私を見詰める。星のような瞳は私の心を奪うには十分だった。
そんな問い答えは決まっている。
「私は貴方のためにこの身を尽くしましょう。それに、幸せにして頂かなくて結構ですよ。二人で幸せになればいいのですから。」
どうやって笑顔を作っていたか分からなくなる程、自然に笑みが溢れ出す。
「そうか……。君はそういう人だ。お人好し令嬢とはよく言ったものだな。」
「その渾名嫌いだったんですよ。でも、お人好しと言われている間は居場所があるような気がして、ニコラ・アーレントである為にはそうするしか無かったのです。」
今までの人生を思い出しそう言った。
悲しげな瞳で私を見ると、そっと私の顔に殿下の手が触れた。
「殿下……?」
そっと殿下の顔が私に近づく。
口付けの予感に目を閉じる。
「んっ……」
唇から伝わる殿下の温かさに思わず声を上げる。
「突然すまなかった。辛そうな君を見ていたら我慢が出来なくなった。」
目を逸らして言った殿下に顔が茹で上がるように熱い。顔から火が出てしまうくらいに熱かった。真っ赤に熟れた林檎のような顔を殿下に見られるのは恥ずかしく私も目を逸らす。
「大丈夫です……。嫌だったら逃げてます。」
「そして、君はもうお人好しのニコラ・アーレントではない。君は……ニコラ・グレーデンになるのだから。これからは自由なニコラ・グレーデンとして生きればいい。」
再び視線が交わると殿下はそう言った。
「……ありがとうございます。私はこれからも貴方と共に……」
再び私達の影は重なった。
これから先の人生何が待っていても、私はニコラ・グレーデンとしてたった一人のこの人と喜びも悲しみも全て分かち合うと心に決めた。
お付き合い頂きありがとうございました(*_ _)♡
詳しくは活動報告の方で*_ _)