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7 お人好しの想い人

 

「若いっていいわねぇ。そうだ、ニーナちゃんと出かけてきたらどうだい? 時間はあるんだろう?」


 メラニーさんは名案だ! とでも言うように目を輝かせてカイの方を見て言った。


「あの仕事が………それにカイも忙しいんじゃ……?」


 さすがに来たばかりで仕事を放り出して街に遊びには行けない。カイだって下級とはいえ貴族だ。私のわがままは通せない。


「何言ってるのよ、せっかくカイが来たのに仕事なんてやらせられないよ」


 さも当たり前のようにそう言うと、メラニーさんはカイを見た。


「そんな、悪いですよ」


 私が慌てて言った言葉は


「ってことだし、行こっかニーナ。俺も時間あるしね」


 というカイの言葉にかき消された。


「ほんとにいいの?」


 カイは微笑んで私の手を取った。私も自然と笑顔になる。きっと私の顔は熟れたリンゴのよりも真っ赤なんだろうなと思いながら、繋いだ手に力を入れた。


 手を繋いだだけでこんなに幸せなんてカイに出会うまで知らなかった。


 私たちは手を繋いだまま、街を歩いた。


 カイは私に歩くペースを合わせてくれる。


 エスコートとか慣れてないと言いつつ完璧にこなすカイはきっと普段も家のことを完璧に支えているんだろうな、と私の知らないカイを想像してみる。


「ニーナは、店の方はうまくいってるのか?」


 中心街に着くとカイはそう言った。


「うん。まぁまぁかな。カイは?最近何かあった?」


 偽りの身分の話はなるべく早く切り上げないとボロが出てしまう。もし、本当のことを知ったらこの関係が崩れてしまいそうで不安になる。


「俺の方も特に何も無いかな。俺はのびのびやってるよ」


 カイはそう言うと、少し考えたように黙り込むと私を見て、


「なぁ、貴族と庶民の恋ってありだと思うか?」


 と聞いた。それは、今の私達のことを言っているのだろうか。いつになく真剣な顔に思わず息を飲む。


 ここで、だめだと答えたらこの関係は終わってしまうのかな?


 でも、普通は貴族は貴族と結婚するものであり、そもそも政略結婚で溢れている世界だ。貴族ならば恋愛結婚というのを求めてはいけないのかもしれない


「どうなんだろうね。私には分からないよ」


 なんと返していいか分からず答えを曖昧にすることしかできなかった。


「そうだよな、変なこと聞いてごめん。俺はさ、貴族だけどニーナといつか………」



 そこまで言うと、困ったような顔をして黙り込んでしまった。


 この先の言葉はなんだったんだろう。


 私が望んでいる言葉だとしてもきっと思い通りにはいかない。二人ででこうして肩を並べて歩くのも、この幸せな時間が続くのも限りがある。そう思うと活気に溢れたこの街を歩く人々が灰色に見えてくる。




「きゃー! 見て見て、ルーカス殿下よ」


 突然、甲高い女性の声が響いた。


「ほんとだわぁ! 今日も素敵ね〜」


 それに同調するように次々に歓声が上がる。


 人々の注目の的は………


「あぁ、ルーカス殿下だね。今日もすごい人気だな」


 そう、この国の第二王子ルーカス殿下だ。甘いルックスに人好きのする笑顔。この国の女性全員が惚れるのではないかと言われているほどの人気ぶりだ。


 一度パーティーで見た事があるが、令嬢たちの壁ができていて恐ろしかったのを覚えている。


「す、すごいんだね」


 ぼんやりとルーカス殿下の方を見るカイにそう言った。


「そうだな。俺みたいな下級貴族は関わることないけど」


 カイは地方の下級貴族で周辺を治めるだけで精一杯の弱小貴族だと言って笑っていた。たしかに、殿下のような王族は私でも遠い人間だ。パーティーで見かけても挨拶して遠くから見るのが限界かな。最近ではほとんどパーティーにも行かないから尚更、遠い存在に感じる。


「人が増えちゃったね、違う所に行こっか?」


 カイが私の手を再び握り言った。


 そう言いながらも殿下の方を見るカイの目が鋭かったのは気のせいだろうか………?


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