67 お人好しと危険な夜会
とうとう夜会当日。
ダンスはあの人達に仕込まれたので完璧とは言わないけれど、人並みにはできるつもりだ。
「ニコラ様なら当然ですがどのドレスも似合いますね。どれになさいますか?」
セーラが大量のドレスを私に見せて言った。こんなにあると迷ってしまうけれど……
「うん。これにしようかな。あまり露出が多いのは好みじゃないわ。」
誰かさんとは違ってね……なんて意地悪なこと思ってしまったのは内緒だ。
「ニコラ様が自分でドレスを決めるなんて珍しいですね。いつもどうでも良さそうにしていらしたのに。」
楽しげにセーラは笑うと手早く私の髪を直した。
「何だか欲張りになってしまったみたいなの。」
私も変わったと自分でも思う。今まで簡単に抑えられてきた感情が表に出てしまうようになってしまった。
「ニコラ・アーレント様。今日こそあの薄情者達を痛い目に合わせてやって下さいね。」
ニコラ・アーレントね……。
そう、家族とは縁を切った?
でも、私はニコラ・アーレント。
「そうね。まぁ、今まで我慢してきたものね。セーラそろそろね。」
笑顔のセーラを見てそっと微笑んだ。もうすぐ殿下が来る頃だろう。
「ニコラ、時間だ。」
最近やっと聞き慣れてきた殿下の声がした。着飾った姿で殿下の前に立った。
「はい。分かりました。」
「綺麗だ。君とこのような場で並べる日が来るとは思わなかったな。人目を気にしない逢瀬も良かったが。」
そう言って私をさり気なくエスコートして下さった。
会場に向かう足が地に着いているのか不安になる程夢見心地な気分だ。
この時を夢見た訳では無いが、今までの人生から考えれば私が今立っている立場は想像できない。
ただ隣で微笑む殿下に安心するだけで、これから先の事は分からない。
しかし、今は何より幸せを感じていたい。そして今までの自分と決別したい。
今日、確実に多くの事が変化する。
私の元家族は来ているのだろうか?
顔を会わせたくないが今日だけは最後の別れに一度だけ会っておきたい気分だ。
「さぁ、行こうか。」
柔らかく微笑む殿下に僅かに心が軽くなるのを感じた。
「はい。」
会場に着くと中からは大勢の人が既にいるようでざわめきが聞こえた。一瞬そのざわめきに怯みそうになったが心を決めたんだ。
私は何を言われても、例え周りに受け入れられなくても自分の意思を貫く。それが殿下の重荷になるのならば殿下の前から姿を消す事も覚悟の上だ。
私達が会場に入ると集まった貴族の視線が集中した。
殿下に向けられる目はいつもの尊敬の眼差しが。
私に向けられる目は鋭く、冷たいものだろう……と思っていたけれど
「ニコラ侯爵だわ。あの恥ずかしい方達から家督を継いだのよね。」
「えぇ。仕事を全てこなしていたのはニコラ嬢ですもの。元アーレント家の方達は今日断罪されるとルーカス殿下も仰っていましたし。」
「今や貴族でもない平民ですわよね。ニコラ嬢を虐めて反省しているといいのですが。」
私を擁護する声の多さに驚いた。
元アーレント家の皆様はいつ来るのかしら?




