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65 お人好しの帰還(2)

 

「夜会の事は詳しく聞いていません。それよりも……」


「ニコラさま────!」


 私の言葉を遮ったのは鬼の形相で走って来るセーラだった。



「セーラ……」


 セーラに抱き着かれ戸惑っていると、

 

「それでは、私はこれで。」


 ニクラスは良いチャンスとでも言うようにそれだけ言っていなくなってしまった。聞きたい事が沢山あったのに逃げられてしまった。



「セーラは殿下達がユリウスを捕まえようとしている事知ってるの?」


「詳しくは知りません。」


 セーラは私を離すと戸惑いがちにそう言った。


「そう。取り敢えず城に戻りましょうか。」


 よく見れば綺麗とは言えない格好だ。ドレスの裾も汚れ、とても他人には見せられない状態になっていた。







 その後、部屋で休んでいると何やら外が騒がしくなってきた。


「ねぇ、セーラ何かあったの?」


「えぇ、殿下達が戻られたようです。」


 なるほどね。ユリウスが捕まった事でこの騒ぎが起きているという事か。

 今すぐ会いに行って事情を聞きたいけれど少し気持ちを落ち着かせてからにしよう。



「……ニコラ!ニコラ!いるか?」


 そう思った傍から焦ったような声が扉の向こうから聞こえた。


 カールハインツ殿下……

 あんな事言って別れた後だから、どんな顔して会えばいいのか分からない。それに、急いで来たのだろうか?少し息切れしているように感じる。



「ニコラ様は忙しいのでお引き取り下さい。」


 私が答える前にセーラは怒ったように殿下に言い放つと扉を閉めようとした。


「あ、セーラ……大丈夫だから。」


 恐ろしい勢いで殿下を追い返そうとするものだから焦って飛び出してしまった。



「ニコラ、無事だったか?話したい事は沢山あるが今は休んだ方がいい。」


 勿論、飛び出したせいでバッチリ殿下と目が合う。心配そうに私を見る殿下に聞こうとしていた事が出てこなくなる。


「いえ、大丈夫です。出来れば説明して頂きたいです。何があったのかを。」


 かろうじてそうは言ったが、何から聞けばいいのか混乱していた。



「あぁ。そうだな。私の部屋でゆっくり話そう。着いてきてくれるか?」


 そんな私の様子を見てか先程より落ち着いた声で殿下は言った。聞きたい事を混乱する頭で整理しながら殿下の後ろを着いて行った。





 殿下の部屋に入るのは初めてだな。こんな時だから緊張しないけれど……と思ったけれどそう考えたら何だか緊張してきてしまった。


 いや、緊張なんてしている場合じゃないでしょ。


 自分で呆れながら殿下の部屋に入った。


「失礼します。」

 

「そこの椅子に座ってくれ。」

 

 殿下はいかにも座り心地の良さそうな椅子を指さして言った。言われた通り座り殿下の言葉を待った。



「君にはまず謝らなければならない。本当に申し訳ない事をした。」


 そう言って殿下が頭を下げた。


「頭を上げてください。それに、何が起こっているか分からない状況で謝られてもどうして良いか分かりません。」


 突然の事に驚き早口になってしまった。それに、今欲しいのは謝罪ではなく現状説明だ。



「分かった。先ずは今までの事を話すよ。」


「お願いします。」


 殿下は先程の困った表情を引き締め口を開いた。



「実は前々からユリウス・トレーガーがアーレント家を利用しようとしていることは知っていた。そして、アーレント家諸共捕まえるというのはユリウスを油断させるための嘘だ。」



「つまり、アーレント家を貶めるつもりは元々なかったということですか。」


 殿下の口からあの言葉を聞いた時はショックが大きかった。それが本心からでは無い事に安心したが理由が分からない。


「あぁ。言い訳に聞こえるかもしれないがこの城にはユリウスから送られてきた間者がいた。その者に会話を聞かせれば、王族が動くのは君の妹が結婚した後だとユリウスに伝え油断させることが出来ると思った。」


 言い訳に聞こえなくもないが納得した。


 たしかにアーレント家に罪を着せるのはルイーゼと正式に結婚してからだろう。王族が動くとなればユリウスも警戒する。私が一人でユリウスの所へ行く事が決まれば後は油断した所を捕まえる。それに、調子に乗ってペラペラと喋るから言質も十分という事ね。


 利用された……?


 まぁ、いいけど。でも、あの時ニクラスが本気で私を始末しようとしたら私は今ここにいないのでは?


「そういう事ですか。私は利用されたのですね。もしかして、私に近付いたのは密輸の犯人を捕まえるためだったという事ですか。」


 大して悲しい気分ではないが、殿下の反応が気になりわざと気落ちした声で言った。


「……あのパーティーの時に声を掛けた時はそうだ。だが、今は違う。それに、ニーナが君だと知った時から君への気持ちは……」



 焦ったかと思えば、顔を赤くしたり戸惑った顔をしたりと忙しそうに表情が変わる殿下に思わず笑いが込み上げてきてしまった。



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