64 お人好しの帰還
「起きて下さい。大丈夫ですか?」
ここは何処だろうか。それに今話しかけている人は誰だろう。この声は知っている。意識を失う前に何か言っていた人だ。いや、それ以前に聞いたことがある。そうだあのパーティーの時にいた。
「……ニクラス・バーナーね。何故貴方が?たしか、ユリウスの手先だった気がするわ。」
ニクラスはユリウスと共謀して密輸をしているとフィリーネに聞いた記憶がある。
「今は王家と協力関係にあります。」
淡々とそう答えると松明を取りだした。
「コロコロ変わるのね。信用ならないわ。」
「罪は償います。今はここから逃げることに集中して下さい。」
もう少し愛想のある人だった気がするけれど気のせいかな。こんなことを言ったらユリウスと同じになってしまうか。
「ここは何処ですか?」
「出てから話します。」
先程からあまり私の質問に答える気は無いらしい。堅そうな人に見えたが実際はその通りだったようだ。
ニクラスはユリウスを裏切ったのか?それに、私は気絶させられた。今ユリウスはどうなっているのだろうか。疑問は尽きない。
しかし、今はここから出るためニクラスに従うのが得策だろう。
薄暗く周りが見えにくい。彼が持っている松明のおかげで進めるが少し気味の悪い場所だ。長い回廊が続いている。
恐らくここは地下のようだ。あの建物の下にこんな地下があるのだろうか。
暫くの間沈黙が続いた。何も話してくれないのなら此方から何を言っても仕方がない。じめじめとした不快な回廊をただ進んで行った。
「もうすぐです。」
口数の少ないニクラスはこちらを見ずそれだけ言った。行き止まりのように見えるが扉のようなものがあった。
「どうせ答える気は無いと思いますが何故貴方が王家の味方を?トレーガー家との関係の方が濃いはずでしたが。」
扉を見ていた顔が私の方を向いた。無表情を崩さず何を考えているのかは分からなかった。
「いずれ分かる事です。」
やはり答えてはくれなかったが、ニクラスは重たい扉に手を掛けると強く押した。
僅かに外の光が差し込んだ。外に繋がっていのね。良かった。話は後で聞けばいい。今は取り敢えず無事に外に出なくては。
「さぁ、出て下さい。」
ニクラスは短くそう言うと扉を開けた。
言われるがまま外に出ると
「ここは城の裏側ね。」
どうやら抜け道だったのかあの荘厳な城の後ろに出ていた。
「そうです。貴方を無事に城まで届けるよう言われていたのでこの道を使いました。」
私が知りたい事はそれではないのだけれど、と思いつつもこんな道があった事に驚いた。
でも、何故あのレストランからここに繋がる道があったのだろうか。まさか、ユリウスが……何かを企んでいた?
「そう、ありがとう。」
取り敢えずニクラスのお陰で助かったことは紛れもない事実。しかし、私に手刀をあびせたのもニクラス。これはどうなのだろうか。
「では、直ぐに城に入ってください。私はこれで。」
無愛想を通り越して、もう何とも思わなかったが紅茶の話をした時とは随分と違う人だったな。
「待って下さい、今どういう状況なのですか?」
「あぁ、言い忘れてました。」
いや、説明しろよ!と思ったが説明無しに立ち去られては困る。
「今、殿下たちがユリウスを捕まえている頃でしょう。そして、貴方も早く戻った方がいい。貴方も出席するのでしょう?」
「出席?すみません……何の事ですか?」
突然言われても何のことだか分からない。ニクラスは困惑する私に少し意外そうな顔をした。
「夜会ですよ。明後日でしょう。カールハインツ殿下から聞いていませんでしたか?」
「夜会……ですか。」
聞いてない。
あぁ。そういえばそんな知らせが来ていた気がする。明後日だったんだ。
家族全員出席と書かれていて面倒臭いと思った記憶がある。
という事はまたあの人達と顔を合わせるの?私が居なくなって少しは大人しくなった……わけないか。