62 お人好しvs元婚約者(2)
「この料理とても美味しいよ。君も食べたらどうだい?」
そう言って目の前の男は美味しそうに、いかにも高級そうな料理を口に運んだ。その姿はまるでこの料理には毒は入っていないと伝えるように見えた。
「あまり食が進みませんので結構です。」
私の言葉に気を悪くした様子もなく微笑む。
「意地悪なお姉さんなんだってね。ニコラ嬢は。」
……ルイーゼか。ユリウスの前で私をなんと言っていたか知らないがだいたい想像はつく。どうせろくでもないことをあることないこと吹聴したのだろう。
「そう言うならば、その通りなのではないでしょうか。どちらにしろ貴方に何と思われようと私には関係ないことです」
落ち着け。だめだ……この男は私を動揺させて何か企んでいる。乗せられたら大変な事になってしまう。そう自分に言い聞かせてもやはり
「あれ?随分嫌われちゃったね。残念だな。でも、君はとっても可哀想だね」
差程残念そうには見えない様子で言うと煽るよな視線を私に向ける。
「可哀想ですか。」
可哀想か……それは家族に虐げられていた事を言っているのだろう。
「うん。俺が娶ってあげようか?君くらいの顔だったら別にいいよ?ほら、君の妹なかなかの醜女だし。」
何処まで煽ってくる気だろう。口調も前会った時と違う。私が全てを知って止めに来たと分かっていてこの態度を貫くというならば……。
「……巫山戯ているのならそれくらいにして頂きたいですね。」
「巫山戯てないよ?あの娘、醜女なのにさ、俺にべったりでそれに俺が自分に夢中だと思ってるみたいで……」
ルイーゼをどれだけ中傷されても別にそこまでなんとも思わないが、何故この人がここまでルイーゼの事を言うのか分からない。
「ルイーゼの悪口ですか?それに対して私が言うことは何もありませんよ。」
「あはは!冷たいお姉さんだね。でも、俺もきつかったんだよ?本当にいい所は扱いやすいお馬鹿さんだって事くらいかな〜。」
何を言っても止まらなそうな勢いでルイーゼの悪口を延々と言うつもりなのか。何の目的でここまで来たのかわからなくなってきた。
「それは分かりましたから私を呼び出したのは何故でしょうか?」
「それはね、君を助けてあげようと思ってだよ。」
いつもユリウスの周りを囲んでいた令嬢達が失神するくらいの美しい笑顔で言うと私を試すように見た。
助ける?それは一体どういう意味なのだろうか。
「突然言われても困るよね?今まで放っておいて悪いと思ってるよ。でもやっと助けてあげられるよ。」
笑顔を崩さず言い退ける彼に何を言っていいか分からなかった。
「…………どういう事でしょうか。」
ようやく言えた言葉はあまりにも意味がなかった。
「仕事も押し付けられて皆に虐められて、挙句の果てに罪まで押し付けられて家族の縁切られたんだってね。可哀想に。」
今更、そんな事を並べられても心が動くわけが無い。何が狙いか分からないが私を懐柔しようとしている?
「どう思われても構いませんが私は不幸な訳ではありません。」
私にはあの家族だけでは無い、居場所がある。
「へぇー。それってさ殿下たちの事?君の家族を陥れようとしているのに信じてるの?彼らは君の言葉では動いてくれなかったのにね。」
「……何故それを貴方が知っているのですか?」
これは私と殿下が話していたこと。それを彼が知っているという事は………。
「まぁ。お馬鹿な王子様とは違うからね。どう、これでわかったでしょう君の味方なんて実際居ないんだよ。」
「そうですね。ありがとうございます。」
私はそう言って笑って見せた。
「何言ってるの?辛くて混乱しているのかな。まぁ、いいけどさ。」
やっと彼の笑顔を崩すことができた。僅かに彼の顔が曇ったように見えた。
それに、ありがとうございます……貴方の情報のおかげで私は殿下を信じられそうですよ。